【八十一 玄奘、孫悟空を出迎える】
玉龍との戦いを終えた孫悟空は、再び五行山に戻ってきた。
パニック状態だった玄奘のことが心配で、觔斗雲をかなり急がせての帰還だ。
「悟空!」
玉龍と共に觔斗雲から降りた孫悟空に玄奘が飛びついた。
「無事に戻ってきてくれて嬉しいです!怪我などしていませんか?」
玄奘は孫悟空の体を確認するように触り、怪我がないことに安堵して息を吐いた。
「悟空、さっきは……緊箍呪を使ってごめんなさい……」
そしてあの時に言えなかった謝罪の言葉を言い、頭を深く下げた。
「あんなにあなたが苦しんでいたのに、私は呪文を止めず……本当にごめんなさい。二度とあれは使わないと誓います!」
「お、お師匠様もういいって。ほら、頭上げなって」
孫悟空は慌てて玄奘の体を支えて頭を上げさせる。
「二度と使わないなんて言ったらダメだって。最初に言った通り、お師匠様が俺を止めることができるのはアレだけなんだから。まあ、あまり理不尽な使い方はしないでくれるとありがたいかな」
孫悟空の言葉に玄奘は目を丸くした。
緊箍呪を使わないなんて言うなと言われるとは思いもしなかったからだ。
「こうしてあなたに謝罪の言葉を告げられてよかった。よく無事で戻ってきてくれましたね」
玄奘があまりにも嬉しそうに言うので、孫悟空はむず痒くなって明後日を向いて背中を掻いた。
「では我らはこれにて」
孫悟空に代わり玄奘の護衛をしていた六丁六甲、五方掲諦、四値功曹、凌駕伽藍は、孫悟空の帰還を確認するとそう言って姿を消した。
「あれ、お師匠様、あいつらなんか増えてなかった?」
孫悟空が玉龍を追う時、現れた六丁六甲は確かに十二人だったはず。
だが今見た限り、玄奘の周りにいたのは倍近くの二十人ほどで。
なぜだろう、と首を傾げて孫悟空が尋ねると玄奘が説明をした。
「六丁六甲の方々は、皇帝が付けてくださったお供の人たちを探すために応援を呼んでくださったのです」
「ふーん、で、見つかった人たちは?」
肝心の六丁六甲たちが探し出した人間たちの姿はどこにもない。
孫悟空は意識を集中して自分の縄張りである五行山の中を探ってみたが、どこにも玄奘以外の人間の気配はかんじられなかった。
「彼らは皇帝のところへ帰しました。彼らにも家族がいるでしょう。は、白露のようにこの道中……く、喰われるわけには……ウッ……グスッ」
気持ちは落ち着きかけていたが、また白露が食われた時のことを思い出したのか玄奘はうつむいて声を震わせ目を潤ませた。
「おや?」
その時、ようやく玄奘は觔斗雲の上にもう一人いるのに気づいた。
まだあどけない様子の、頭にツノが生えた明らかに人とは違う姿の少年だ。
「悟空、そこの子は?」
彼のまとう衣服は一目で良質なものだとわかるもので、その身に纏っている甲冑も立派だ。
「ほら、こっち来いよ」
孫悟空が手招きすると、緊張した面持ちの少年は觔斗雲から降りて孫悟空の隣に立った。
「こいつが白露を食った玉龍ですよ」
「え……?でも、あれはものすごく大きな……」
「まさか」と半信半疑な玄奘の前で、玉龍は元の龍の姿に戻った。
「え……っ?」
巨大な龍の姿に玄奘は驚き声も出ない。
そして玉龍は大きな頭をブン!と音を立てて下げた。




