【七十九 玉龍、観音菩薩から白馬変化の術を伝授され、青鸞は河伯に決意を告げる】
観音菩薩は小さな壺と柳の枝をどこからか取り出し、柳の枝を壺の中に入れた。
そして枝を取り出して「フッ」と玉龍に向けて小さく鋭く吹く。
すると、細かい水の粒子が玉龍を包み白馬の姿に変えた。
元が龍なだけあり、毛並みも艶やかで筋骨逞しい大きな馬だ。
「ヒッ、ヒヒン!」
そして馬になった玉龍は馬の言葉しか喋られなくなった。
「ヒヒン!ブルルルルッ!」
突然馬に姿を変えられ、玉龍は慌てた。
「落ち着きなさい。あなたなら元に戻れるでしょう」
観音菩薩が言うと馬の姿の玉龍は光に包まれ人型に戻った。
「はー、びっくりした……カンノンさん、さっきのなに?」
「仙気を込めた甘露水を使った馬変化の法です。あなたはこれから玄奘の馬に成るのですからね」
「でもあんなに大きいと俺の雲にも乗らないぞ」
「だから元に戻せるように調整したんですよ。玉龍、こちらも身につけておきなさい」
次に差し出したのは甲冑。何やら文字が刻まれた不思議な形をしている。
「もう一度変化を」
「う、うん……」
甲冑を身につけた玉龍が白馬に変化すると、立派な馬具が装備されていた。
「おお、かっこいいじゃん!!すげえ!」
孫悟空は目を輝かせて興奮して言う。
「人型の時は甲冑に、馬に変化した時は鞍や鐙と言った馬具になるように調整してあります」
「カンノンさんってそんなこともできるの……」
人型に戻った玉龍は感心して言った。
「これで私の役目は終わりですかね。さ、そろそろ私たちは帰りましょうか」
「はい、お師さま」
観音菩薩が呼びかけると、哪吒太子の髪を結い終えた恵岸行者が弟の頭をやさしく撫でてから戻ってきた。
「玉龍、しっかりと務めを果たすのですよ」
「うん……じゃなくて、はい!」
「悟空、玄奘を頼みますよ」
「任せてくれ!」
観音菩薩は満足そうに頷くと、恵岸行者と共に雲に乗って天へと帰っていった。
「我々も戻ります。青鸞殿は河伯殿に話があるだろう。哪吒と共に後からゆっくり来なさい。では河伯殿、これにて。機会がありましたら酒でも飲みましょう」
各村から羅刹と夜叉を引き上げた托塔李天王もまた、そう言って天を駆ける馬を走らせ去っていく。
「話?」
予想もしなかった托塔李天王の言葉に、河伯は青鸞童子を見た。
青鸞童子は緊張の面持ちでしばらくの沈黙の後、口を開いた。
「はい……実は僕、近々哪吒兄様の元を離れて迦楼羅王様の元へ修行に行こうと考えております」
「ほう、迦楼羅王……!」
河伯のため息混じりに言ったその声は感心と興奮のためかかなり大きかった。
迦楼羅王は猛禽の頭を持つ、鳥頭人身有翼の天将だ。




