【六十八 玉龍、激昂する】
「がああああっ!」
玉龍龍の咆哮が空を揺らす。
それは悲しみと怒りが混ざった、身勝手な咆哮。
「キライキライ、みーんな、大っ嫌い!!」
太い尻尾で水面を打ち、咆哮で雷を呼ぶ。
渦を巻いて宙を舞えば強風が吹き荒ぶ。
「いかん、哪吒、孫悟空、先行して玉龍を止めよ!」
「おっしゃ、親父さんまかされたぜ!」
「……チッ、俺に命令すんなよなクソ親父」
やる気満々で孫悟空は觔斗雲の速度を上げ、哪吒太子は舌打ちをしてぶつぶつ言いながらも風火輪の出力を上げた。
「托塔李天王、僕も……!」
「青鸞殿は河伯殿が合流するまで待機していなさい。先程の疲れもまだとれていないだろう」
「しかし……」
「これは命令だ。青鸞殿は待機。哪吒と孫悟空
の戦いをよく見ておくといい」
そう言って托塔李天王は今度は眷属たちに指示を出した。
「夜叉、羅刹部隊は近隣の人里に被害が出ぬよう結界をつくれ!手が空いているものは哪吒たちを援護せよ!」
玉龍に加え、哪吒と孫悟空が暴れたらあちこちに被害が出るだろう。
海と川の境には稲光が瞬く黒く濃い雲が渦巻き、冷たい暴風が暴れ回っている。
「哪吒兄様、孫悟空さん……」
青鸞童子は先行した二人の無事を祈った。
やがて孫悟空たちが厚い雲をぬけると、嵐の中央でメチャクチャに暴れる玉龍をみつけた。
孫悟空は如意金箍棒を、哪吒太子は火尖槍を構え玉龍に近づいていく。
「猛禽じゃないお前たちなんてボクの敵じゃないよ!」
二人に気づいた玉龍は体を回転させて、その太い尻尾で二人を撃ち落とそうとした。
「そんな大ぶりの攻撃が当たるかよ!」
孫悟空はそれを觔斗雲の上で宙返りをして避ける。
觔斗雲と孫悟空の間を通った尻尾は孫悟空の頭を少し掠めたくらい。
孫悟空は觔斗雲に着地すると、すぐさま反転して玉龍の頭に向けて如意金箍棒を向けた。
「伸びろ!素早く、長く!」
孫悟空が命じると、如意金箍棒はグンと速さを上げて伸びていき、玉龍の顎を打った。
「イダっ!」
「おっと、まだだぜっ!」
背後から近づいた哪吒太子に、孫悟空の相手をしていた玉龍は気付くのが遅れた。
だが火尖槍の先をギリギリで避けることができた。
「っぶな!後ろからなんてヒキョーだぞ!」
玉龍が咆哮する。
玉龍に呼ばれた紫色の雷が、二人の持つ如意金箍棒と火尖槍にせまる。
「っく、疾!」
哪吒太子が乾坤圏を外し、上空に向けて撃つ。
金属に誘われ、紫の雷は乾坤圏に落ちた。
「あっぶねー、助かったぜ哪吒」
「ああ……」
礼を言う孫悟空に、戻ってきた乾坤圏が帯電していたのか、少し痛そうにしながらそれを掴んだ哪吒太子はうなずいた。
そこへ援護のためにやってきた托塔李天王率いる夜叉と羅刹の部隊が玉龍に襲いかかる。
「なんなんだよ、ボクが何をしたって言うんだよ!」
尾で夜叉と羅刹たちを弾き、爪をふるいながら玉龍が叫ぶ。
「いかん!」
托塔李天王も眷属たちを庇い、宝棒を三叉戟に変化させて振るう。
「親父さん、無理すんな!俺がいく!哪吒は親父さんたちを守れ!」
「え〜……」
孫悟空の言葉に渋々ながらも父親に合流し、眷属たちの護衛に移った。
「よし、おい玉龍いいかげんにしろ!」
これ以上夜叉と羅刹たちを傷つけさせるわけにはいかない、と孫悟空はさらにその前に出た。




