【三十一 孫悟空の企み】
岩の牢からは切なげな孫悟空の叫びが響いている。
「俺様が悪かったよぉおおおお!ゲンジョーさん!!!戻ってきてくれよぉおおおお!!!」
嘘泣きだろうか、と玄奘は錫杖の音を立てないようにこっそりと岩の牢を覗いてみた。
猿だから元々なのかもしれないが、顔を真っ赤にして涙をボロボロ流し鼻水でぐしょぐしょになった孫悟空の様子は、とても嘘泣きには見えない。
なんだか孫悟空にとても悪いことをしたような、かわいそうな気持ちになった玄奘は孫悟空に声をかけた。
「孫悟空」
「ワッ!なんだよ、ゲンジョーさんいたのかよ……いるなら無視すんなよぉ……」
ぶっきらぼうに、拗ねたように孫悟空はいうけれど、玄奘を見上げるその表情はパァッと明るくなった。
「すみません、ちょっと空を見ていたものですから。ところで……反省しましたか?」
玄奘の問いに涙目の孫悟空は鼻水と涙を袖でぬぐってからこくこくと頷く。
そして孫悟空は突然、何を思ったかその場に土下座をして玄奘を見上げた。
「失礼な態度をとってすみませんでした!俺様……いえ、俺をさっさとここから出せ!……じゃなくて、出してください、お願いします!」
頭を下げたとたん、ぶつけたのかガンッと大きな音がした。
「ちょ、大丈夫ですか……?!すごい音がしましたけど……」
(なーんてな。こいつチョロそうだし、ここから出たらボコボコにしてやるぜ!)
オロオロする玄奘の声に、頭を下げる孫悟空はニヤリとした。
(俺様に恥をかかせやがって……ぜってえ許さねえからなクソ坊主!)
「わかりました。あなたをここから出しましょう。でも約束してください。乱暴なことをしない、言葉遣いに気をつける、盗みをしない、他人を傷つけない……」
「わかったわかった、わかりましたから!約束しますから早く出してください!」
「では……」
玄奘は岩に貼られた札を一息に剥いだ。
すると、札は玄奘の手から風に攫われ、溶けるように消えてしまった。
その途端、岩の牢は崩れ孫悟空は五百年の封印から解放された。
「やった、本当に出られた!!自由だー!!」
孫悟空は大喜びで飛び跳ねている。
陽の光に赤毛が当たって輝いていて、泣き腫らしたせいか目はまだ赤いのだが、その弾けるような笑顔に玄奘も嬉しくなった。
「それでは悟空、他の皆を待たせていますので行きましょう」
「はいはい、今行きます〜!」
口では従順なことを言っているが、孫悟空はこっそりと爪を尖らせた。
「くらえクソ坊主!!!!」
孫悟空は背を向ける玄奘に向けて鋭い爪を振り上げ、飛びかかった。




