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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十五章 枯葉に惑わされし師弟の絆】
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【二百五十一 ついに師から告げられた決別の言葉】

「悟空、少し話をしましょう」


 食事の後、出立の準備を終えた頃、徐に玄奘が孫悟空に話しかけた。


「話ってなんですか、さっきのことですか?悪いですけど俺様、譲る気はありませんよ」


「悟空……」


「お師匠様の身を護るのが俺様の役目です。あなたに近づく妖怪は問答無用で討たなくてはならないんですよ」


「でも、いい妖怪もいるでしょう?黒風怪殿とか、黄風大王さんとか……」


 玄奘は思いつく妖怪の名を挙げてみたが、孫悟空は顔をさらに渋くした。


「あいつらは改心しましたけど、そうでない妖怪の方が多いんですよ。それに……お師匠様はご自分が妖怪たちにとってどんな存在かわかってるんですか?」


「それは……」


 玄奘は口をつぐみ、うつむいた。


 自身が玉果という妖怪たちからすれば希少価値の高い肉体の持ち主であると聞いているが、自覚はなかったから。


「でも言葉を交わすことができるのです。だから、きっと……」


「甘いです。やつらが人間の言葉を話すのはどうにかして騙して食らおうとするためでもあるんですよ」


 ピリつく二人の空気に、玉龍は泣きたい気持ちになった。


 今まで旅をしてきた中で最大の空気の悪さだったからだ。


「オジさん、ゴジョー、なんとかならないの……?」


 助けを求めても、玄奘の頑固さを知る二人は首を振ることしかできない。


「むしろちゃんと話し合った方がいいかもしれない」


「まあな、そうかもな」


 沙悟浄の言葉に猪八戒も頷く。


「でも二人ともあんなケンカ腰じゃ話し合いも何もできないでしょ?」


 猪八戒と沙悟浄は顔を見合わせて同時にため息をついた。


 孫悟空と玄奘の今の状態は、二人にもどうにもできないのだ。


「やいや空気わーりいな。おめさんがたなじらね?」


 そこへヨロヨロと杖をついた老人がやってきて話しかけてきた。


「お前、性懲りも無くまた来たのか!」


「なしてばれた?!」


 老人は孫悟空に打たれ、断末魔の叫びをあげて骨になって崩れた。


「全く……ばれたくなきゃその言葉遣いをなんとかしろっての」


「悟空!」


 手をぱんぱんと叩いて如意金箍棒を担ぎ直す孫悟空に、玄奘が詰め寄った。


「たとえ妖怪であろうと、そのようにいきなり命を奪うなどしなくても良いではないですか!」


「これは元から死んでいるんですよ。僵屍キョンシーなんですから」


「えっ……僵屍キョンシー?」


 悲しげな表情で言う玄奘に、白骨をツンツンと如意金箍棒の先で続きながら孫悟空が言う。


「ジイちゃんが言ってました。人は死ぬと魂魄になり、魂は天に、魄は地に帰るものだって。それがうまくできなかったり、魄を道士に縫い付けられたのが僵屍になるんです。だから、むしろこの地にとどめられている魄を解放してやらないといけないんです」


 玄奘はまじまじと白骨を眺める。


「低級僵屍なら言葉も話さないですけど、これは中級くらいですね。こうした変化の術も使いますから危険なんです。このまま放っておいたらいろんな人が襲われたでしょう」


「でも……!」


「お師匠様はやっぱり甘いですよ。あいつらはあなたを食らうために手段を選ばないんですから」


 そう言って孫悟空は転がっていた白骨を粉々に砕いた。


「どうせこれもまた分身だろうけどな……」


 孫悟空はぶつぶつと呟きながら穴を掘り、土をかぶせていく。


「……あなたを破門します」


「は?なんだって?!」


 玄奘はそう言うと、土をかぶせる手を止め驚く孫悟空の緊箍児を外した。


「お師匠さん!?」


「オシショーさま!」


「……」


 玉龍たちはそれを止める間もなく、玄奘は孫悟空の頭から外した緊箍児を片付けた。


「もうあなたは自由です。……今までありがとうございました」


 孫悟空の顔が怒りのせいか、それとも他の何かのせいか、さらに赤くなり、目が潤む。


「あーっそ、あっそ!俺様もせいせいしたよ!!輪っかが取れて、あーさっぱりした!これからどーなっても知らねえからな!觔斗雲、来い!」


 孫悟空は觔斗雲を呼び出し飛び乗った。


「では、道中お気をつけて、玄奘様」


「……っあなたもお元気で。孫悟空殿」


 嫌味ったらしく言う孫悟空に、玄奘はそっぽを向いて強がりのように冷たく言い返すが、錫杖を握るその手は震えていた。


「何で??どうしてそうなるの?ねえ、おシショーさまぁ……」


 玉龍が玄奘の袖を掴んでゆするが、玄奘はツンとしたままで、玉龍は觔斗雲に乗り込んだ孫悟空に駆け寄る。


「ゴクウ、本当に行っちゃうの?!ねえ!ゴクウ!!」


「じゃあな!」


「わぁっ!」


 すがりつく玉龍を引き剥がし、孫悟空は觔斗雲に乗って飛び去ってしまった。


「オジさんもゴジョーも何で止めないのさ!!」


「いや、突然のことで……おれも動けなくて……」


「……」


 止める間も無く呆気に取られていた猪八戒と沙悟浄は、オロオロと玄奘を振り返った。


「さ、片付けて出発しますよ。天竺に急がなくては」


 玄奘は震える声でそう言うと、口元を引き結び、目元を拭って荷造りを始めた。


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