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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十四章 人参果の木と鎮元大仙】
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【二百四十一 魔羅に対抗する存在は】

 玄奘は無表情のまま、錫杖を地に突いた。


 シャン、と涼やかな音が波紋のように広がった。


 玄奘は淡々と呪文を唱え、錫杖をついていく。


 玄奘が突く錫杖に反応して、波紋のように広がる光は切れ目なくあたりに広がっていく。


「ぐっ、なんだ、これは……!」


 その光は魔羅の体に上り、緩やかに光の層を積み重ね、輝きの強度を増していく。


 玄奘の反応は、魔羅の予想外だった。


 普通であれば魔羅を恐れ、命乞いをするか逃げるかなのに、目の前の僧侶はそれをすることなくまっすぐに魔羅を見つめ、なんの反応も無しに呪文を唱え続けている。


(こいつ……?!)


 玄奘の目は魔羅をまっすぐ捉えて離すことなく、その瘴気に汚された瞳の真の色を探るかのようだ。


(な、なんだコイツ)


 魔羅は怖気づいた。


(この余を圧倒するだと……?)


 玄奘の呪文を唱える声がだんだんと早まり、錫杖をつく音も拍子の速度を上げる。


 錫杖から出る浄化の光も次第に強くなり、魔羅は気圧された。


「人間如きに、この余が……?!」


 魔羅は狼狽えた。


(そんなわけがない。おかしい。人の身で余の魅了が効かぬものがいるはずがない。いるとすれば──……!まさか!)


 魔羅は一つの可能性を思い立ち、唇を戦慄かせた。


「まさか貴様……!」


「ようやく気づいたか」


 魔羅の呟きに、玄奘は微笑んだ。


 正確には「玄奘の中に入ったもの」が。


 そして次の瞬間、その玄奘の体がまばゆい光を放った。


 その光が触れた瞬間、観音菩薩たちの金縛りが解けた。


「あれ、なんか怖くない……姐さん、もしかして……!」


 普賢菩薩が准胝観音にいうと、准胝観音は不敵な笑みをうかべ、頷いた。


「ああ、やはりいらしてくださったか……!」


 准胝観音が視線を向けると、観音菩薩も察した様子で、姉に返答するように頷く。


「勝てる。勝てますよ、姐さん!」


 普賢菩薩は浮かれて呉鉤剣を握りしめて言った。


「ああ、あとは機を待つばかり」


 准胝観音は迅る普賢菩薩を静止し、魔羅の様子を注意深くうかがった。


「──っこの光はやはり……!」


 魔羅が狼狽える。


 観音菩薩たちもまた、その場に座し、合掌した。


「釈迦……貴様か!」


 苦々しげにいう魔羅に玄奘──いや、釈迦如来は柔らかな笑みを浮かべた。


「おまえがくるのならばこちらも私が出ねばなるまい」


 そう言って釈迦如来は錫杖を置くと、おもむろに坐禅を組み、左手を膝の上に置き、右手の指先を床に向けた。


 釈迦如来が悟りを開いた時、魔羅を退けたという降魔印だ。


「魔羅よ──去れ」


「ぐっ!」


 釈迦の淡々とした命令に、まばゆい光が波状の光線となって発された。


 その光の波は凄まじい勢いで魔羅に襲いかかる。


 魔羅は五対の腕を顔の前で交差し、その光から身を守ろうとする。


 だがその光は魔羅の腕一本一本を引き剥がしていき、あっという間に全て奪い取ってしまった。


「ここにきたのがお前の運の尽きよ。ああ、悪魔に運などないか。ふふ、──滅せよ」


「おのれ、おのれ釈迦め──ッ!!!」


 笑みを消した釈迦如来がさらに力をこめると、魔羅の体はさらに光に覆われた。


 腕を全て失い、身を守る術をなくした魔羅の体はシュウシュウと音を立てながら灰色の煙を上げている。


「悟空、魔羅の核を破壊するのです!」


 観音菩薩が叫んだ。


「核?つっても、そんなのどこに……」


 崩れかけた魔羅の体のどこかにあるのだろうが、核らしきものは見当たらない。


 人ならば心の臓だろうが、魔羅の胸部はもう崩れ去っている。


 その時、何かを見つけたらしい猪八戒が沙悟浄の肩を叩きどこかを指差した。


 沙悟浄も理解したのか、猪八戒に頷き返す。


「オレたちが引き摺り出すから、悟空ちゃんはそれを撃て。いくぞ、悟浄ちゃん!」


「おう!」


 猪八戒と沙悟浄は示し合わせて魔羅の残骸へと飛びかかった。


 釈迦如来の放つ後光のおかげか、先ほどまであった恐怖心は消え、身動きも軽い。


 その時、崩れ去ったはずの魔羅の体がすごい速さで再生していく。


 そして、再生した腕が二人を捉えた。


「ここまできて、消されてたまるか!」


「往生際が悪いですよ、魔羅」


「だからこその魔羅よ!この場の恐怖が、恐れが疑いが怒りが余を何度も招くのだ!」


「ですがここは仙郷。あなたのいるべき、来てもよい場所ではありませんよ」


「綺麗事を!ここも余の支配のうちとすれば良いだけよ!」


「……」


 魔羅の言葉に、釈迦如来は呆れた様子で目を閉じ首を振り、さらに後光の力を強めた。


「おのれ釈迦ぁあああ!!」


 魔羅の体は再び崩れ、そのおかげで床に落とされた猪八戒と沙悟浄は素早く体制を立て直し、それぞれの武器を魔羅の丹田へと突き立てた。


 丹田は力の源にもなる場所だと言われている。


 猪八戒が見つけた魔羅の核はそこにあったのだ。


 猪八戒と沙悟浄の武器では貫けられなかったその核は、魔羅の肉体の一部と共に掬い上げられた。


「悟空!」


 猪八戒と沙悟浄が叫ぶ。


「おう!」


 孫悟空は威勢よく返事をすると、如意金箍棒を振りかぶり、魔羅の核へと振り下ろした。


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