表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十四章 人参果の木と鎮元大仙】
236/319

【二百三十六 猪八戒、沙悟浄、魔羅の瘴気に惑わされる】

 降妖宝杖の先端についた、三日月型をした刃が魔羅の尾の先を切り落とす。


 黒い血を撒き散らしながら、尾の先は清浄の間の床を転がっていく。


「チッ、やられたか」


 魔羅が舌打ちをして呟くが、大して気にしてもいないようだった。


 沙悟浄は降妖宝杖を構えながらチラリと玄奘の様子を目の端で確認する。


 玉龍が伝える前に尾の音が止んだため、玄奘はいまだ等間隔で錫杖を突いている。


 玉龍はというと、自分にできる精一杯のことを考えたのだろう。


 如意宝珠を使って玄奘のサポートを始めている。


「助かったぜ、悟浄」


 頭を振り、まだ耳に残る音を消し去るそぶりをしながら孫悟空が礼を言う。


 豚頭を人の頭に直して、猪八戒が釘鈀の柄を床についた。


「よおし、悟浄ちゃん、オレたちも加勢するぜ!」


「しゃーオラ行くぜぇええええ!魔羅め、10億倍返しにしてやる!」


 孫悟空と猪八戒は今までの鬱憤を晴らすように魔羅へと飛びかかっていった。


「小虫も群れると鬱陶しいわ」


 魔羅はそう言って二人から距離を取る。


 魔羅はこの清浄の間を抜け、崑崙のどこかに身を隠そうと考えているのだ。


 だが猪八戒の釘鈀はそれを許さない。


「そらっ!」


 猪八戒は容赦なく、釘鈀を振り下ろす。


 釘鈀の先は櫛のように細かく刃がついていて、それが魔羅の鱗甲に突き刺さる。


 だが鱗甲は細かく密集していて釘鈀の刃を防ぐ。


「なかなか心地よい刺激ではないか」


 魔羅は笑う。


「もちっと上の方もかいてくれぬか?この姿だと背がかけなくてな」


「っ、この、バカにしやがって!」


 釘鈀を背中をかく道具のように言われ、猪八戒は激昂した。


「お望み通りくれてやるよ!」


 猪八戒は釘鈀を振るい、魔羅の体を撃つ。


「あーソコソコ、貴様、按摩もなかなか気持ちいいぞ」


「ふざけるなぁあああ!」


 魔羅が本当に心地よさそうにいうので、猪八戒はますます頭に血を上らせた。


「おい、落ち着け八戒!」


「なあ沙悟浄、どうしちまったんだよ八戒のやつ」


「魔羅という存在は悪感情を支配するようだ。恐れ、弱気、疑い、怒り。アレの近くに寄ると心が惑わされてしまうのかもしれない」


「なんだって!よくわかんねーけど、やばそうじゃねえか!」


 孫悟空は沙悟浄の難しい語句の説明に、雰囲気だけで危険を察した。


「釘鈀はかなり重い武器だ。八戒の体力も長くは持つまい。俺たちも行くぞ、悟空」


 沙悟浄の予想通り、全力で釘鈀を振るった猪八戒は早々に限界を迎えた。


「はぁ、はぁ……くそっ」


 ついに釘鈀を取り落とし、猪八戒は膝をつく。


 汗だくになって荒い息をついている。


「あーだいぶ体が楽になった。礼を言うぞ。そうだ、お代をやらねばな。受け取るがいい!」


 そう言って魔羅は毒液を猪八戒に向けて吐いた。


「──っ!」


 へとへとの猪八戒に、その毒液を避けることはできない。


「オジさん!」


 玉龍が叫ぶ。


 孫悟空は毛を抜いてフッと吹いた。


「身外心の術!」


 孫悟空の分身が三体出現し、猪八戒の盾となった。


「間に合え、如意金箍棒──っ!」


 そしてさらに孫悟空は猪八戒に向けて如意金箍棒を伸ばした。


 魔羅の毒液は出現した孫悟空の分身三体が身代わりに受け止め、猪八戒を守った。


「八戒!……っく」


 特別な術を施すまもなく放った、急ごしらえの分身のダメージは孫悟空に返ってくる。


「なんだと?!」


 痛みに耐えながら孫悟空が伸ばした如意金箍棒は猪八戒を押し出し、魔羅の前から遠ざけることができた。


「その牙、もらう!」


 猪八戒に気を取られていた魔羅は、一気に距離を詰めた沙悟浄に気づかなかった。


 沙悟浄は降妖宝杖を振るい、魔羅の牙を砕き落とした。


 それから沙悟浄は宙で身を翻し、その巨大な魔羅の頭に踵を使った重い一撃をお見舞いした。


 魔羅は床に押しつぶされ、清浄の間に重苦しく大きな音を待てる。


(手応え、あった!)


 沙悟浄は確信を得て、降妖宝杖の柄で魔羅を床に押さえつけた。


「このまま叩き潰してやる!うおおおおおおおっ!」


 魔羅の巨体に、さらに間髪入れず沙悟浄が連撃を加える。


 捲簾大将の座を降ろされて以来様々なことがあったが、数千年も天帝の近衛を勤めていただけあり、沙悟浄のその戦いの腕は体に刻まれており衰えてはいない。


 沙悟浄の容赦ない連撃に、次第に魔羅の体がひび割れていく。


 その度に、黒い魔羅の血飛沫が沙悟浄にかかる。


 返り血で真っ黒に体が染まっていくのに構わず、沙悟浄は構わず降妖宝杖を振るい続けた。


「ちょっと、ゴジョー!ゴクウ、ゴジョーが変!止めて!」


 玉龍が叫ぶ。


「何っ?!」


 分身のダメージに苦しんでいた孫悟空は、顔をしかめながら身を起こし、沙悟浄を見た。


「おっと、これは本当にやばいな」


 魔羅の瘴気から離れた猪八戒はぼんやりしているが、大丈夫そうだ。


 猪八戒の様子をチラリと確認してから、孫悟空は痛みを振り解くようにして立ち上がり沙悟浄へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 感情まで支配してしまうって、かなりまずいですよね…。 その中で沙悟浄は戦っているわけですが、精神とか大丈夫か、心配です…
2024/07/03 19:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ