【二十三、義父の役目と青鸞童子の望み】
貞英から解けた混天綾は、ヒラヒラと宙を泳いで哪吒太子の元へと戻っていく。
「よくもやってくださいましたわね、三哥!」
貞英が振り上げた大槌を防げるほど、托塔李天王と打ち合う哪吒太子に余裕はない。
「危ない、哪吒兄様っ!」
青鸞は思わず駆け出して、両手に持った錐を交差しその大槌を防いだ。
「さすが、青鸞さまですわ!」
ニヤリと笑って貞永は後方返りして大槌を構える。
「貞貞の大槌を防ぐとはやるな!さすが花婿殿!次はこの李爸爸の矛を受けてみなさい!」
「あっこのクソ親父……っ!」
するりと哪吒太子の火尖槍を避け、托塔李天王が三叉矛を青鸞に向けて突き出してくる。
「ぼ、僕は花婿でもないし、貞英娘々とおままごとをしていただけなんですけど……っ!」
青鸞は托塔李天王の三叉矛から繰り出される素早い突きを受け流すので精一杯だ。
矢継ぎ早に繰り出されているのに、一撃一撃はとても重くて、だんだんと青鸞は手が痺れてくる。
「青鸞っ!」
「お待ちください三哥、青鸞様をかけて私と勝負ですわ!」
哪吒太子が援護に向かおうとするが、そこに貞英が立ちはだかった。
「青鸞をかけてって……まったく、貞英!いいかげんにしなさい。三哥(お兄ちゃん)本気出すからな」
「望むところですわ!」
哪吒太子の宣言に貞英は恐ろしがるどころか嬉しそうにはしゃいだ。
一方、青鸞は托塔李天王の攻めに防戦一方である。
「さあ、捲簾大将の秘蔵っ子の本気……そろそろ見せてもらおうか!」
「僕だって、義父様のように……やってみせる!」
捲簾大将からは武芸一式を習っている。
ただそれが相手に通用するかは別の話。
青鸞は錐を放り投げると青龍刀を鞘から素早く抜いて持ち替えた。
そして向かってくる三叉矛の切先を打ち落とし、思い切り踏みつける。
正直、托塔李天王の矛を見切れるとは青鸞本人も思っていなかった。
托塔李天王の三叉矛は一撃一撃が唸るような音を立てるほど重いが、義父との打ち合いに比べたらその動きは遅い。
(もしかしたら手加減してくれているのかもしれないけれど……)
肩で息をつきながら、青鸞は「これからどうしようか」と思案する。
足で押さえつける三叉矛は震えていて、托塔李天王がそこに込めた力が足の裏から伝わってくる。
捲簾大将に課せられたお役目の話は、蓮花宮にきた時に托塔李天王から聞いた。
あの事故はさるお方の意思で、起こるべくして起きたのだと教えてもらった時は、安心が半分と憤りが半分。
(それなら僕も一緒に堕ちたかった……)
普通なら青鸞も捲簾大将と共に地に落とされていたはずだった。
だが青鸞が残されたのはその役目の足手纏いだと判断されたからだろう。
托塔李天王も哪吒太子もそんなことは言わなかったけれど、置いていかれたというのはきっとそういうことなのだと、青鸞はひどく落ち込んだ。
だからいつか、そう判断した存在を見返せるように、自分も義父の手助けができるようになりたいと青鸞は強く思うようになった。




