【二十一、青鸞驚愕!いつの間にか李天王一家の花婿候補になっていた】
重いうなり音を立てて振り下ろされた大槌は哪吒太子の火尖槍が防いだ。
「大丈夫か、青鸞」
「は、はい、哪吒兄様」
任務明けで疲れているのだろうに、哪吒太子は火尖槍で貞英の大槌を防いで押し返し、青鸞を抱きかかえて飛び下がり素早く距離を取る。
「青鸞は巨鳥、鸞の子だ。いずれ番となる雌の和を探しにいかねばならない。貞英の花婿にはなれないよ」
「あら、そんなのわかりませんわ!私だって成長したら媽媽みたいな美しく立派な淑女になりますもの。きっと青鸞さまも私を選んでくださいますわ。ね、青鸞様」
「いや、僕は……」
おままごとの話じゃなかったのか、と青鸞は混乱した。
哪吒太子はため息をついてやれやれと頭を掻いている。
「とにかく今それを決める必要はないだろう。まだ青鸞は雛鳥のようなものだ」
貞英から青鸞を庇うように立ち、哪吒太子が言う。
「三哥も青鸞様を狙っていますのね……ならば勝負ですわ!」
「いや狙うとかそう言うことではなくだな貞英……」
「いいですわ。三哥は青鸞様と組んでくださいまし。私は爸爸とくみますから」
「いや貞英、組むとかじゃなくて……」
どうして自宅の庭で戦闘が始まっているんだと哪吒太子は青鸞に尋ねるが、青鸞にも意味がわからないまま始まったので首を振るしかない。
「ちょうどいい。哪吒、苦戦した先の戦闘での反省会と行こうじゃないか。覚悟せよ」
「偉そうにクソ親父が!あれはてめえが俺の邪魔したからだろうが!テメェの邪魔がなければ俺の火尖槍であんな雑魚悪鬼速攻で消し炭にできたんだよ!」
父親に対しては導火線が極端に短い哪吒太子は声を荒らげる。
「哪哪、ちゃんと爸爸と呼びなさい。あとワシは普通に偉いしクソではない。その性根、蓮の精となっても変わらぬか。叩き直してくれるわ!」
「るせぇボケが!ちゃんつけて呼ぶんじゃねえよ!あと口がクッセェんだよ!」
「臭くない!爸爸はちゃんと歯磨きの後歯間清掃してその上で洗口もしてるもん!」
「加齢臭ってしってる?あークッセェクッセェ!」
哪吒太子は鼻を摘んで手を振る。
「哪哪、もう、爸爸怒るよ!」
「るせぇボケ、黙れクソが!」
「もう、三哥ったらお言葉が過ぎますわ!爸爸が可哀想……」
「貞貞、爸爸臭くないよね?いい匂いだよね?」
顔を近づけて尋ねる托塔李天王に、思わず貞英は顔を背ける。
「……ええ、大丈夫ですわ!」
「貞貞、その間は何?」
「ほーらやっぱりクセェんだ!貞英も臭いって言ってんぞクソ親父〜」
「三哥何を……私は臭いだなんて言っていませんわ!」
「態度に出てるんだよ!爸爸クサーイやめて〜近寄らないで〜って」
哪吒太子は鼻を摘んで手をひらひらと揺らしながら言う。
「だから、言っていませんわ!三哥酷いです!」
「もう、爸爸怒った!哪哪、爸爸許さないんだからね!」
右足をダンっと踏み鳴らし托塔李天王は玲瓏塔を開く。
「えええ、何で……?」
哪吒太子がこの戦いを止めてくれると思っていた青鸞は、すがるように吉祥仙女を見た。
青鸞の視線に気づいた吉祥仙女はにっこり笑った。
「あぁ青鸞殿、ご安心ください。怪我をしても大丈夫ですよ。私が如意宝珠で薬を作りますからね」
「と、止めてくださらないのですかっ!?」
「あらそうね、危ないわね。哪吒、火はダメよ火は」
「そうじゃなくて……!」
草花が燃えてしまうからね、という吉祥仙女に、青鸞は白目を剥く。
「わかっていますよ、母上……!」
母親には素直に従う哪吒太子は火尖槍をしまい、金の腕輪を外した。




