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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十四章 人参果の木と鎮元大仙】
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【二百八 役者孫悟空】

 鞭で打たれた孫悟空の太ももには傷跡も何もなく、玄奘を始めその場にいた誰もが何が起こったのか理解できなかった。


「一体どう言うことですか?!怪我は?縄は?!」


「お師匠様落ち着いてください。俺様ならこの通り無事ですから」


 孫悟空によると、術で体を硬くして痛がるふりをしていたと言う。


「自分の血くらい幻術で出せますよ。ほら」


 そう言って孫悟空は鞭で打たれた太ももから血を流す。


「脂汗まで浮かべていたのも術か。よく見破られなかったもんだ」


「俺様の術の師はしゅだいだぞ。あんな奴に見破られるかよ」


 驚く猪八戒に孫悟空が鼻で笑って言うと、沙悟浄と猪八戒は驚いて顔を見合わせた。


 その間にも孫悟空は手際よく仲間達の縄を解いていく。


「須菩提祖師……?」


 その名を知らない玄奘と玉龍は顔を見合わせ首を傾げた。


 猪八戒と沙悟浄は難しい顔をして唸っている。


「ああ、そうかあのお方か……どことなく、悟空に似たところがあるな」


「オレさ、上官からあのじーちゃんに書類持って行けって言われて行ったことあるんだけど、何度も化かされて酷い目にあったんだぜ」


「八戒もか。玉皇大帝もあのお方にはだいぶ頭を悩まされていたな……」


 色々と思い出して疲れたのか、猪八戒と沙悟浄は互いを労うように肩を叩き合っている。


「ねー、そんなにすごい人なの?しゅぼ……?シュボうんちゃらソシって」


「しゅぼだいそし、な。それはもう破天荒なお方でな、悟浄ちゃん」


「ああ……破天荒と言う文字だけで言い表せないほどのお方だ」


 思い出すだけで疲れると、沙悟浄は肩を揉みながら言う。


「まあ、じいちゃんは楽しんで術を使うことを大切にしていたからな。俺様にも色々教えてくれたんだ。もちろんイタズラもな。俺様が思い付かないようないろんなイタズラをやってて、今も尊敬してるんだ」


 懐かしそうに孫悟空が言う。


「イタズラね……」


 孫悟空以外は思うところがあるのか、顔を引き攣らせて話を聞いていた。


「さ、じいちゃんのことはもういいとして、こんなところさっさとおさらばしましょ!そうだ、八戒、お前はそこらへんの木を4本抜いてきてくれ」


「木を?何に使うんだよ」


「俺様たちの身代わりにつかうに決まってんだろ。ついでにかんぬきも外してきてくれ」


「つってもどうやって外に……」


「まあ見てろって」


 孫悟空が印を組み、何かを呟いた。


 次の瞬間、猪八戒は虫の姿になっていた。


「それであの格子窓から外に出られるだろ」


 猪八戒虫は羽音を立てながら窓の外に出て行った。


 玄奘は猪八戒虫を見送った孫悟空の手を取った。


「悟空、また逃げるのはやめましょう」


「え?なんでですか?お師匠様は俺様たちが鞭に打たれてもいいんですか?」


 玄奘は首を振った。


「もうこれ以上罪を重ねてはなりません。あなた方に代わり、私が罰を受けます」


「そんなことさせるわけないでしょう?それに鎮元の奴もお師匠様を打たないって言っていましたよ」


「ならば、いま猪八戒にしたように、私とあなたの姿を交換なさい。できるでしょう」


 玄奘は孫悟空につかみ掛かって言う。


「お師匠さま、落ち着いてください」


 沙悟浄が慌てて孫悟空から玄奘を引き剥がした。


「だから、そんなことできないって言ってるんですよ。どうしたんですかお師匠様」


 孫悟空が玄奘を落ち着かせるように肩を撫でて尋ねた。


「私ができることはこれしかないのです。せめてあなた方の罪を師として責任を……」


「そんなの取らなくていいんですよ。あなたは人間で、俺様たちは妖怪。頑丈さも違うんですから。それに俺様はこの通り大丈夫ですから」


「悟空!」


 玄奘は肩を撫でる孫悟空の手を払った。    


「あなたも私を何もできない無力な赤子と笑うのですか!」


「お師匠様?」 


「おシショーサマ……」


「……」


 道場がしんとする。


 重苦しい空気が道場を包んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 悟空たちとしては玄奘を思ってのことだと言うのはよく分かりますが、えてしてこう言うのって、差別になったりするんですよね…。 体も心も強い存在に、弱いもの扱いされてしまう差別。 玄奘としてはやは…
2024/05/10 14:11 退会済み
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