【二百一 弟子の理由と師匠の責任】
部屋に戻った玄奘たちだったが、誰一人口を開かず部屋には重苦しい空気が立ち込めている。
玄奘の前には人参果を食べたさん弟子が正座をして座っている。
沙悟浄はうなだれ、猪八戒は沈痛な面持ちで手で顔を覆い、孫悟空はむくれた顔をしている。
「悟空、なぜ人参果を食べたのです」
「……うまそうだったから」
「本当に?」
玄奘の問いかけに孫悟空が頷いた。
「俺様猿だし、木の実大好きだし……食ったことないから気になったんです。それに、あいつら俺様を馬鹿にしたから……ずっとムカついてた」
「悟空……」
「それに沢山なっていたから、たった三つくらい食べたって気づかれないと思ったんです」
「お師匠さん、オレも悟浄も考えが浅はかでした」
「申し訳ありません」
謝罪する弟子たちにかける言葉を、玄奘はすぐに思いつくことはできなかった。
「謝ったって仕方ないじゃん!もうニンジンカの木は無くなっちゃったのに」
玉龍が言うと、三人の弟子たちはさらに深くうなだれてしまった。
「こんなことして、チンゲンって仙人様が戻ってきたらおシショー様がどうなるか考えなかったの!?」
正論に次ぐ正論に、孫悟空たちには何も言い返せない。
「でも、あいつら数を数えているなんて……」
「悟空、数えていてもいなくても、人のものをかってに取ることはいけないことですよ。ましてや、責められたからと木を切り倒すなんて……」
玄奘が優しく言うと、孫悟空はパッと顔を上げた。
「俺様、そこまでやろうとは思ってなかったんです。でも、なんだか急に、ぐわーってなって、俺様にもわからないんですけど、頭が真っ白になって……気がついたら斧を拾って木を切ってしまっていたんです……」
「悟空、そんな……」
記憶がなくて思わず切ってしまったなど、そんな理屈は通用しないだろう。
その時、部屋の扉がコンコンと音を立てた。
「お食事をお持ちいたしました」
扉の向こうから聞こえてきた風舞の声に、猪八戒が扉を開いた。
「月亮様、風舞様……!」
やつれた様子の月亮と風舞が弟子たちを引き連れ食事を運んできた。
皆暗い顔をして食事を置いていく。
正直、玄奘も食事をする気持ちにはとてもじゃないがならなかった。
「玄奘様、少しは召し上がりませんと、気力が持ちませんよ」
玄奘の気持ちを察したのか、力のない声と絶望したような瞳で月亮が言う。
「我々には鎮元大仙の沙汰を待つほかないのです。覚悟を決めましょう」
まだ目の光が宿ってる風舞が月亮を支えながら言った。
「では、食事が終わった頃食器を下げに参りますね。ごゆっくりどうぞ……」
まるで葬儀の行列のように、虚な目をして月亮と風舞たちに引き連れられて弟子たちが部屋を出ていった。
そのあと少ししてガチャり、というおとがした。
「ねえ今のなんの音?」
「あいつら、鍵かけやがったな!」
孫悟空が牙を剥き出しながら扉をガタガタとゆすった。
「これほどのことをしたのですよ、私たちは」
「ボクたちじゃなくてやらかしたのはゴクウとオジさんとゴジョーだけじゃん!」
「弟子の罪は師匠の罪。大人しくしていましょう。さあ、とにかくお食事をいただきましょう。風舞様の言うとおり、倒れてしまっては謝罪もできませんからね」
そう言って現在は弟子たちに座るよう促した。




