【二十、李天王一家】
青鸞は重い音を立てながら振りまわされる大槌を避けながら逃げ回った。
(あんなに小さな体で軽々と……)
七つの娘が背丈ほどある大槌を軽々操る貞英をみて、青鸞はさすが李天王の娘だと感心した。
「あらあら、なんの騒ぎ?貞英?」
騒ぎを聞きつけて、吉祥仙女が現れた。
「まあ、大きな穴がたくさん……あら、この大きな穴、木を植えるのにちょうどいいわね。南天の木でも植えようかしら。あちらには桃の木、柊もいいわね」
吉祥仙女は、ゆっくりとした性格を表すように、のんびりと喋りながら、庭園のあちこちに空いた穴を眺めている。
現在進行形でその穴は増えていっており、吉祥仙女はその様子を眺めて朗らかに笑っている。
(いや、止めないんですか?!)
七歳の少女に反撃するわけにもいかず、ただ逃げ回るしかない青鸞は平然としている吉祥仙女の様子に困惑した。
「こら貞貞!このお転婆め、また青鸞殿を困らせていたな」
そこへ今度は任務から戻った托塔李天王がやってきた。
ボロボロの風体で、疲れた様子の哪吒太子も一緒だ。
「爸爸!」
托塔李天王は呆れたように言いながらもニコニコしながら駆け寄ってきた貞英の頭を撫でている。
「爸!青鸞様を困らせていたなんてそんな!青鸞さまの気分転換になればと思って、私はその……」
「全く、ダメじゃないか。爸爸も混ぜなさい」
「まあ!爸爸も一緒に?」
「へっ?」
玲瓏塔と三叉矛を出してウズウズと我慢できない様子の托塔李天王に、貞英は目を輝かせ青鸞は顔を青くした。
「将来の花婿殿の腕前を確かめなくてはな!」
「まあ爸爸ったら、気が早いですわ」
父親の言葉に貞英は両頬に手を当て恥ずかしがって言う。
「え……は、花婿?」
聞き捨てならない言葉だが、青鸞は混乱していてなんと言ったらいいのか言葉が出てこない。
「青鸞殿、貞貞の花婿になりたいのならこのワシを倒しなさい!」
「ち、ちょっと待ってください、僕は花婿だなんて……!」
おままごとをしていただけなのに、どうしてこうなった、と青鸞は頭を抱えた。
天界でも屈指の武闘家と知られる托塔李天王である。無事で済むわけがない。
「行けぃ!」
しかし問答無用とばかりに、托塔李天王の号令で玲瓏塔の蓋が外れ、青鸞を捉えようと襲いかかってくる。
「くっ!」
青鸞は素早く二本の錘を外し、襲いかかってきた玲瓏塔の蓋を叩き落とした。
地面に落ちた命令の遂行を失敗したそれは、本体の方へと戻っていった。
「なかなかやるじゃないか」
托塔李天王は不敵に笑って褒めてくれたが、青鸞は肩で息をついている。
あれに捕まったら焼き鳥になってしまう。
青鸞は命の危険に反射しただけだ。
「双錐でよくこれを打ち返したものよ。さすが捲簾の秘蔵子といったところか」
青龍刀も持っているが刃物より打撃系の武器の方がマシだろうと考えたからだ。
刃物でうっかり貞英の長い髪や肌を傷つけるわけにはいかない。
「安心するのは早くてよ、青鸞様!」
「わっ!」
ほっと一息つく間も無く、素早く近づいてきた貞英から振り下ろされる大槌はとてもじゃないが避けきれそうにない。
幸い腕には籠手を巻いていたので、それで受け止めようと覚悟を決めた。




