表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十二章 ついに再会した玄奘と河伯!九つの前世の時を超え……今世こそあなたを守ります!
175/319

【百七十五 河伯、玄奘の弟子となり沙悟浄と名を改める】

 ハッとして玄奘が背後に隠した九つの頭蓋を見ると、それらからはまだ瘴気が漏れていた。


 玄奘は頭蓋骨の首飾りを置き、合掌をして呪文を唱え始めた。


 だが河伯が玄奘に縋り付き、それをやめさせようとしてくる。


「頼む、その首飾りを消さないでくれ。俺はそれを失ったら二度と立てなくなってしまう。なんのために今まで生き続けてきたのかわからなくなってしまう!」


「河伯!お師匠様の邪魔をするんじゃねえ!」


 カッとなった孫悟空が河伯を玄奘から引きはがそうとする。


「悟空、私は大丈夫ですよ。沙和尚……」


 玄奘はそんな孫悟空を制止して、河伯の手を優しく外し、目線を合わせるように身をかがめた。


 それでも、大柄な河伯を見上げることになってしまうが。


「あなたにとってこれはもう、必要じゃないでしょう?」


「そんなことは……」


 困惑する河伯を見上げて玄奘は微笑んだ。


「だって私はここに。あなたの目の前に今いるのですから。あなたを縛り付けていた過去のものを全て棄て、新しく生まれ変わる時なのです」


「……しかし……」


「もう過去の馮雪では無く、これからは今の私を、玄奘としての私をみてください」


 そして玄奘は、合掌して念じると、輪廻を繰り返したかつての自身の髑髏に触れた。


 すると九連の髑髏は光り輝き、弾けるように霧散した。


 光の粒の向こうには驚く河伯の顔がある。


 頭蓋骨が消えてしまったことに呆然としているようで、しかし長年の思いから解放されたことの安心感も混ざった、複雑な表情だ。


「沙和尚、今生でようやく会えて、私は嬉しいです」


 にこやかに言う玄奘に、河伯は何を言えばいいかわからなかった。


「あの時は助けられなくて、すまない……」


 やっとでてきたのはやはり謝罪の言葉だ。


 ずっと河伯を苛んできた後悔。


 玄奘は河伯の手を握り、首を振った。


「もう終わったことです。大切なのはこれからですよ。沙和尚、どうか私の旅についてきてくれませんか?」


「え……?」


「こうしてようやく巡り会えたのに、またあなたと離れるのはとても寂しいです。ですから、ね、沙和尚?お願いです」


「えっと……それは……」


 河伯がとまどっていると、近づいてきた霊吉菩薩が大声で笑い、河伯の背を叩いた。


「はっはっは!元より河伯はそなたの共にするつもりであったものだ。なあ恵岸よ」


「はい。玄奘君、河伯殿を連れて行きなさい。彼は天帝の近衛だった男。きっと道中の戦力にもなるでしょう」


 霊吉菩薩の傍に立つ恵岸行者も頷く。


「ということだ。玄奘、心おきなくそやつを連れて行くが良い!」


 霊吉菩薩は腰に手を当て呵呵と笑って言った。


「さあ行きましょう、沙和尚。私たちと共に天竺へ!」


「……」


 しかし河伯は立ち上がらなかった。


 そのかわり、その場に膝をついて頭を下げた。


「玄奘どの。これより俺はあなたを師として敬い、護り抜くことを誓います。あなたの弟子として生まれ変わるために、新たに名をつけていただきたい」


「え……っ名付け、ですか?」


 玄奘は戸惑った。


 しかしここで断るという選択肢はなかった。


 玄奘はじっと河伯を見つめた。


「……悟浄……」


 しはらくして、ふと浮かんできた言葉が玄奘の口をついて出てきた。


「沙悟浄、という名はどうでしょうか」


 その名を聞いて、河伯は目を輝かせた。


「沙悟浄……とても良い名です。ありがとうございます」


 河伯改め沙悟浄は嬉しそうに微笑んだ。


「では、沙悟浄。私の弟子として、共に天竺へ行きましょう」


「はい!」


 玄奘が伸ばした手を、沙悟浄は頷き、今度こそ力強く握り返したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 沙悟浄の誕生ですね…! 今までの自分を捨て去って、新たな人生を歩む。 キリスト教の洗礼にも似た部分があっていいですね…! やっぱり新たなものだったりを得るためには、何かを捨てて、失わなければ…
2024/04/06 00:12 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ