表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十一章 烏斯蔵国の豚妖怪
141/319

【百四十一 姿が変わっても】

 准胝観音は手をぱんぱんと叩いて土を落とし、「疾!」と唱える。


 すると、骨壷を埋めた場所を中心にして白い光が大地のひびを縫うように走り、二、三回ゆっくりと瞬いたのちに消えた。


 それを見た猪八戒はガックリと肩を落として膝をついた。


「八戒、そんなに落ち込むことはないだろう?」


「落ち込むなって?!どうして!卯ニ姐のものはもう何も残っていないんだぞ!」


 雌雄一対の翡翠の指輪は、格好をつけて高翠蘭にあげてしまった。


 今更返してくれだなんて言えない。


 地面に額をつけて号泣する猪八戒を見て、孫悟空も玉龍も彼が気の毒になった。


「うわぁ……オジさんかわいそう」


「……だな」


 准胝観音はため息をついて、身をかがめ、猪八戒の肩に手を置いた。


「妾はここにいるではないか。そうだろう?」


「……」


 猪八戒は鼻水と涙で汚れた顔をあげた。


「……それともやはり、お前はこの姿の妾は嫌か?」


 悲しそうに目を伏せる准胝観音に、猪八戒は慌てた。


「そ、そんなわけ……!」


「先程はどんな姿の妾でも良いと言ったのに……やはり……」


 そう言って、准胝観音は九対の腕を隠すように肩にかけた布を引き寄せた。


「ごめん!ごめん卯ニ姐!オレそんなつもりじゃ……」


「嘘をつけ。妾のことを卯ニ姐と呼んだではないか」


「え……っ、あっ」


 指摘されて気付いた猪八戒が思わず口を手で押さえると、准胝観音は恨みがましく、じとりと猪八戒を見上げ、すぐに視線を逸らしてしまった。


「オレ、卯ニ姐が准胝観音だって言われて、混乱して……どんな姿でもオレがあなたを思う気持ちに偽りはない、信じて欲しい……!」


 必死に言う猪八戒に、准胝観音は視線を戻した。


「本当に……信じて良いのか?」


 問いかけに猪八戒はこくこくと頷く。


「ならば妾の骨などもう要らぬな?」


「要らない!あなたが世界のどこかにいてくれるなら、生きていてくれているのなら……!」


 猪八戒の言葉に准胝観音は微笑んだ。


「では妾の名を呼んでみよ。准胝観音と」


「じ、准胝観音!」


 准胝観音は猪八戒に近づいた。


「よいか、妾はもう卯ニ姐ではなく、今は准胝観音としてお前たちを見守っている。覚えておけ」


「わかった!准胝観音!!」


「よし」


 准胝観音の名を自分の中に刻み込もうと、猪八戒はぶつぶつと呟き、それを満足げに准胝観音は眺めている。


「ねーゴクウ、飴のお代わりってもらえるかな?」


「さあな。欲しいなら聞いてみればいいだろ」


 目の前で繰り広げられている茶番劇を、あまりの疲労でからかう気力も湧かない孫悟空と玉龍は、頬杖をつきながら口の中でもう小さくなった飴を噛み砕いた。


 ぶつぶつ呟く猪八戒を放っておき、准胝観音は孫悟空と玉龍に向き直った。


「この場所の他にも、瘴気が強まってきている場所がある。すまないが天竺に行く前にそちらへ寄ってはもらえぬか?おそらく観音菩薩の弟子が対処に当たっているはずだが、おそらくあれには荷が重かろう」


「それってどこなの?」


「流沙河だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 猪八戒にとっては最愛の相手の形見をほぼ全て失うことになってしまったのですもんね…これは辛かっただろうな…でも、いてい観音がずっと見ているから、で納得できるのは、さすが大人だな、と感じました。…
2023/10/29 00:51 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ