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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十一章 烏斯蔵国の豚妖怪
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【百三十 マルティヤ・クヴァーラ討伐戦④】

 

 ルハードは曲刀を鞘に収めると、手際良くその首を尾を詰めた袋とは別の、丈夫なもう一つの袋に詰める。


 首を失った巨体は倒れ、猛毒の血溜まりを作っていく。


『清浄なる、聖清たる炎よ、神の御名のもとに清めよ、浄めよ……』


 ルハードは腰に巻いた道具入れから瓶を取り出し唱えると、蓋も開けずにそのまま血溜まりに向けて叩きつけた。


 すると、割れた瓶から紫色の炎が上がり、マルティヤ・クヴァーラの巨体を包んだ。


「終わったのか……ようやく」


 巨大な紫色の炎を眺め、猪八戒が呟いた。


 長い戦いがようやく終わり、そこにいた誰もがほっと息を吐く。


 ルハードの作り出した浄化の炎で大地も毒気を失い、玄奘と玉龍も孫悟空たちに合流することができた。


「もー、オジさん無理しすぎ!ボクの如意宝珠がなんでもできると思わないでよね!」


 怒り心頭の玉龍はそう言いながらも、如意宝珠を使い猪八戒の解毒と治療を始める。


「す、すまん……」


 猪八戒は頭をかいて玉龍にされるがままでいたが、ハッとしてルハードに声をかけた。


『そうだ、おいルハード、卯ニ姐の宝貝は焼かないでくれよ』


『大丈夫です。これは悪しきものを焼く炎なので、卯仙女の宝貝は焼けないですよ』


 紫の炎はもうマルティヤ・クヴァーラを焼き尽くしたようで、ルハードは残っていた封魔打尽網を拾い上げて猪八戒に渡した。


 あんなに大きな炎の中にあったのに、さすが、力の強い仙女が作った宝貝である。


 縄の部分は焦げもつかず、先端の鏢にも曇り一つない。


 猪八戒はそれを受け取ると大事そうに胸に当て目を閉じた。


「八戒さん!」


 そこへ、崖の上からいつのまにか自力で戻った翠蘭が駆け寄り猪八戒に抱きついた。


 山岳地帯の険しい場所にある烏斯蔵国に住む高翠蘭には、険しい山道を進むことなどは日常茶飯事のことで慣れたものなのだ。


「おっとっと……危ないなお嬢さん、怪我したらどうするんです」


 猪八戒はよろめきつつも、高翠蘭をしっかりと抱き止めた。


 仲睦まじくも見えるその様子に、玄奘と孫悟空は顔を見合わせ笑うが、治療を終わらせた玉龍は不満顔をしてぶつぶつと呟いている。


「スイランさんたら、オジさんは回復したばかりなんだから、気をつけてよね……もう!」


 彼女に直接言わないのは、やはり二人の邪魔をしてはいけないと、それなりに年をとっている玉龍なりに気を使ってのことなのだろう。


 高翠蘭は猪八戒を見上げ、声を詰まらせた。


「師匠の、師匠の仇を取ることができてほんとうに……本当に良かった……っ!」


「そうですね……俺も卯ニ姐と友人の仇が討てて、ほっとしています」


 さりげなく高翠蘭の腕を離しながら、猪八戒が頷く。


『この宝貝を使ったのは翠蘭サンです。彼女が奴にトドメを刺すきっかけを作ってくれたのです』


「お嬢さんが封魔打尽網を?」


 ルハードの言葉に猪八戒が目を丸くした。


 宝貝は仙人が扱う道具で、普通の人間に扱える代物ではない。


 なのに何故、と猪八戒が不思議そうに高翠蘭を見つめていると、高翠蘭は恥ずかしそうに両頬に手をあてうなずいた。


 そして高翠蘭は封魔打尽網を手に入れた時の話をした。


 祭壇に供えた線香の煙がオイルランプの場所を教えてくれたこと、オイルランプから魔人が出てきて宝貝をくれたこと。


『八戒サン、もしかしたら卯仙女はスイランさんのためにこの道具を作ったのかもしれません』


『お嬢さんの?』


『アルシャークの魔道具にも似た不思議なこの道具は、並みの人間に扱える代物ではないはず』


 いくら高家の目という特殊能力を持っていようが、修行もしていない彼女がいきなり宝貝を扱えたということは、きっとルハードの言う通りなのだろう。

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