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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十一章 烏斯蔵国の豚妖怪
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【百二十二 雲桟堂防衛戦】

 猪八戒は驚き、そして歓喜した。


「お師匠さん……あんた……!」


 無表情で唱え続ける玄奘の姿は、シャフリアルの絶叫も聞こえていないようで、まるで彼だけ別の場所にいるような、そんな様子にみえた。


 どこか神々しいその様子に、彼になら、彼とならシャフリアル──マルティヤ・クヴァーラを倒すことができる。


「卯二姐……」


 そんな期待に胸が震え、猪八戒は思わず元妻の名を呟き拳を握った。


 一方で玄奘はそんな猪八戒の思いなど知るよしもなく。


 規則的に振られる錫杖の音と、繰り返される玄奘の声があたりに響いていって。


 音声おんじょうの輪が波紋のように空気を渡っていく。


 そして広がる音は相乗効果となり羂索陣の力を強めていく。


「グゥオ、グゥオオオオオオオ!!!ここまで来て、ココマデキテェエエエエエ!!!」


 業火に苦しみ、のたうつマルティヤ・クヴァーラは、毛皮が厚いためかなかなか死ぬことができないようで、蠍の尾から毒針が発射された。


 その針はまっすぐ、術の発動者である祭壇にいる玄奘に向かっている。


 玄奘の詠唱を途絶えさせるわけにはいかない。


「……ぬん!」


 猪八戒は釘鈀ていはを握り、振るった。


 釘鈀ていは太上老君の作った武器だ。


 一振りで大きな、誰も想像したことのないほどの力を生む。


 八戒が生み出した風は毒針を叩き落とした。


 だが業火に焼かれるマルティヤのクヴァーラも命がけだ。


 執着していた高翠蘭を今更諦めるわけにはいかないと、どうにか羂索陣から逃れようと蠍の尾からは矢継ぎ早に第二第三の毒針が放たれる。


「うぉりゃ、うぉりゃ、うぉおおりゃりゃ!こう見えてもかつては天の川の濁流でで鍛えてたんだ!この天蓬てんぽう元帥げんすい様を舐めるんじゃねえぞ!」


 そうは言うものの、荒い息をついて猪八戒が言う。


 毒針は針という割には太く、撃ち落とすのにも強い力が必要で。


 強がってはいるが、じんじんと腕が痺れている。


「ギザバァアアアアア!!!ブタめ!!!ソウカオマエダナ!!!ならばここにスイランがいるのだろう!喰らってやる!絶対に!!」


 血の混ざった毒の唾液を撒き散らしながらシャフリアルが絶叫する。


 その様子を見ていたルハードは腰に下げた武器の柄に手をかけた。


「そこだな!そのガキ、この男の弟子だった……ルハードだな。そいつが守るそこにスイランがいるのだろう!!」


「……ッ!」


 名を呼ばれたルハードは剣を抜いて構えた。


 まさか名をバケモノに呼ばれるとは思わず、全身の毛が総毛立つ気色悪さを感じた。


 この不快な気持ちを高翠蘭がずっと感じていたのかと思うと、ルハードは彼女が不憫でたまらなくなった。


 そして絶対に高翠蘭をまもろう、そして彼女をこの不安から解放しなければと強く決意した。


「ダガまずはクソ坊主からだ!!」


 血まみれになった三列の牙が開かれ、喉の奥に光が集まっていく。


 白い白いその光はまるで真夏の空の太陽のよう。


「何を……しまった!」


 猪八戒が気づいた時はもう遅い。


 マルティヤ・クヴァーラの口から放たれた光の玉はまっすぐ玄奘に向かって飛んでいった。


 重い釘鈀ていはを振り回し、疲労の溜まった体では追いつけそうにない。


 玄奘の詠唱を止めれば羂索陣は解けてしまう。


 しかし玄奘に危険が迫る今、その天秤をどちらに傾けるかは明白だった。


「クソ、間に合うか!?」


 一か八か、猪八戒は釘鈀ていはを投げ捨て、玄奘に飛び掛かり、彼を抱き抱えると地面に転がった。


「タタラタ……ッ……わあっ!」


 無理に玄奘を引いた時、祭壇に掛かっていた布も巻き込まれ、ガシャーン!と派手な音を立てて祭壇が崩れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーン、非常にスピード感があり、とてもハラハラして読めました。 [一言] 玄奘と猪八戒、はたして無事なのでしょうか…無事だといいのですが…。心配です。
2023/07/30 18:10 退会済み
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