【百十四 変化勝負!一番玄奘に上手に変化ができるのは誰?】
玉龍は孫悟空のそばに来て疑わしそうにその顔を覗き込んだ。
「でも〜、ゴクウに女の子のふりができるの?」
「できるさ!人間の女ってのはこんなふうにクネクネっとしたらいいんだろう?か弱そうに」
玉龍の疑問に、高翠蘭に変化した孫悟空は、自分が思いつく限りの女性像を参考にして身振りをする。
だが彼が参考にできるのは花果山のメス猿たちや、天界で対峙したことのある西王母ぐらいだ。
気も力も強い彼女たちの仕草は、人間の女性たちとは程遠い。
「あら、これダメだわね。雰囲気が全然ダメ。お嬢様はそんな厳つい感じじゃないし、何よりガニ股すぎる」
猪八戒からのダメ出しに孫悟空は納得行かない顔をして変化を解いた。
「じゃあどうするんだよ」
決まりかけていたことが白紙に戻り、孫悟空はうんざりとして尋ねる。
「むっふっふー!ここは、お姉ちゃんがいるボクに任せて欲しいな!!」
玉龍はそういうと高翠蘭に変化し、くるりとその場で回り、顎に拳を当て、小首を傾げてみせた。
「ああ、雰囲気は似てるな。かわい子ぶりっこすぎるけど、まぁ……なかなかやるんじゃないか?」
「そうか?俺の変化と同じじゃねえか。このチビジジイと俺様の変化となにが違うんだよ」
まだ納得がいかないのか、猪八戒の評価に孫悟空は悪態を吐きながら文句をブツブツと呟いている。
チビジジイと言われたことを気にもせず、玉龍は勝ち誇ったように孫悟空をみた。
「負け惜しみは見苦しいわよ、ゴ・ク・ウちゃん?」
「なんだと?!」
「なにさ!」
「二人ともやめなさい!」
玉龍の挑発に掴みかかりそうになった孫悟空を玄奘が止める。
玉龍はくるりと回り、鼻歌を歌いながら長袍の裾をつまんで後ろを振り返ったりしてみる。
「スイランさんをみてると、お嫁に行った二番目のお姉ちゃんを思い出すんだよね。雰囲気が似てるんだ。お姉ちゃん元気かなあ」
勘当された玉龍は二度と龍宮には戻れない。
少し寂しそうな玉龍は、この先二度と会うことのない家族に思いを馳せて言った。
「じゃあ孫悟空じゃなくて、玉龍ちゃんがお嬢様と入れ替わるってことで」
「ふふ、任せて!」
「いやいや、その大変な化け物の誘導、果たして玉龍だけで大丈夫ですかね?」
孫悟空は先程の仕返しだとばかりに、もったいつけて言う。
「たしかに、マルティヤ・クヴァーラはザンコク。このコドモ1人には厳しいカモ……デスね」
「えー、ボク一人でも大丈夫だよお」
「まあ……確かになあ。しかしオレやルハードが行くわけにもなあ」
マルティヤ・クヴァーラと面識のある二人が行けば、間違いなく街中で戦闘がはじまってしまうだろう。
「俺!俺様が行くって!」
「でも猿の妖怪とお嬢様の組み合わせもなあ」
違和感がある、と猪八戒は苦笑する。
屋敷には他の使用人や父親、祖父も居る。
猪八戒以外の妖怪を高翠蘭が連れ歩くのはあらぬ噂や誤解を招くかもしれない。
「でしたらやはり私が……」
「お師匠さんにはマルティヤ・クヴァーラが来たら結界を起動してもらわないとなんで行かれては困ります」
「ではどうしたら……」
即却下する猪八戒に玄奘は難しそうな顔で俯いた。
「ではソンゴクウさんが玄奘サンに変化して一緒に行ったらドウデスカ?」
ルハードの提案に、「それだ!」と八戒が言った。
「で、でも俺様が行ったらお師匠様の守りは……」
ところが、あれだけ行く気になっていたのに、玄奘と離れて行動することに気づいた途端に孫悟空は渋り始める。
「大丈夫大丈夫。お師匠さんのことはこのオレがしっかり守るから、な!」
そんな孫悟空の肩を叩き、自信満々に猪八戒が言う。
「なんか不安だなあ……そうだ!」
その自信満々さに不安を覚えた孫悟空は、自分の毛を数本むしると息を吹きかけた。
すると、目の前に孫悟空の分身が三体現れる。
「俺の分身を置いて行く。おいお前ら、お師匠様を守れよ!」
悟空の命令に分身たちは頷き玄奘を囲むように並んだ。




