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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人を喰らわば骨の髄まで

 

  「おーい!作業時間残り10分だぞ!!ダラダラしてる動きなんて犬に食わせとけ!てめぇらは馬馬車のように働け!」


工場長が働けと檄を飛ばす。

社会の落ちこぼれの私は働くしかない。働いて社会の役に立つ歯車にならなければ私たち落ちこぼれは生きてる意味なんて無いのだ。

週で250ドルの週雇いの工場のパートタイム。

リーマンショックで見事暇を会社から頂いた私は宛もなく面接をしまくってようやく手に入れたパート先で何としても辞めさせられたくない。

だから私は死に物狂いで作業をする。

最近は工場長からも気に入られてきて、いいポジションに回されることも多くなってきた。

この臭い自動車パーツを作る工場、手を油まみれにし、汗くさく、社会の底辺が集まり、今日を明日を生きられるか分からない者達が集まり、底辺の形相を成してるクソみたいな職場。


「作業終了!!!お疲れ様!!帰りに小切手を受け取って帰れ!!!」


そう、本日は何度言っても週に一回の給料日なのだ。

やはり働いているのだから、給料を楽しみにしない方が無理というものだ。

この瞬間の為だけに今週を生き、家に帰り泥のように眠り、朝目を覚まし機械のように家を出て職場に行く毎日。

そのような毎日の中でこの日を楽しみにしない訳には行かないものだ。

私ははやる気持ちを足に乗せ、工場長の元へ急ぐ。

まだか、まだなのか。私は体が思いで煮えたぎるような高騰感に包まれながら足早に工場の元に向かう。

工場長が笑っている。今週も私はしっかりと働いていたので褒めてくれるのだろう。


「あぁ、来たか、ジャクソン待っていたぞ。なぁに、少し遅かったんじゃないのか?」


工場長は嫌に鼻に着く機嫌の良さで私に向かってそう言った。

何かがおかしい。何があるのだろうか?私は不思議に思いながら工場長に答える。


「ありがとうございます。工場長。今週もありがとうございました。また来週もお願いします。」


私は半ば機械的に感情の起伏など微塵も感じられないような声で言った。

工場長はその言葉をゆっくりと嚥下するように深く頷きながら聞いた。

何故だ、何がある、おかしい私の中の危険のアラームが鳴り止まない。

そして口を開いてこう言った。


「ジャクソン。その事なんだが、お前はクビだ。今日限りで終わりだ。」


工場長は重い口を開き私にそう告げた。

重い口の割には酷くあっさりと、妻に明日の朝はスクランブルエッグが食べたいと言うように軽い口調でにこやかに私に言った。


……どういうことだ。分からない。私は何かしてしまったのか。

真面目に働いていただけなのに。働かないクズ共のフォローをしつつ、人の顔色を伺いながら上手く立ち回っていたはずだ。

言葉が理解できない。頭を鈍器で殴られたかのような軽い脳震盪を起こしそうになる。それほどまでに軽い言葉は私に対して重くのしかかった。


「工場長。どういうことでしょうか?私はなにかしましたか?私は真面目に働いていたと思います!情状酌量の余地は無いのですか!!」


私は次の瞬間にはこう言っていた。彼の胸倉を掴みながら。さっきまではなんの感情の起伏も感じられなかった私の声はそれは悲壮感に満ち溢れていた。


「離せよ。底辺のゴミが!!」


工場長はそう言うと私の右頬を殴った。床に転がった私は工場長の方を向くと次に見えた景色はつま先だった。


「クソが!汚れるだろ!底辺の!ゴミ虫が!!」


何分ほどだっただろうか。それは10分の出来事だったのかもしれないし、1時間の出来事だったのかもしれない。

私にとってその時間は永遠にも長く、永く。感じられた。

ようやく気が済んだのだろう。工場長は私の事を蹴るのをやめて小切手を投げながら私に言うのだ。


「ふん!汚らしい人間の底辺が!二度と顔を見せるな!」


ドカドカと鼻息を荒くし大股で歩いていった工場長。

私と言えばしばらく動けそうになかった。

しかし、家に帰らなければならないので満身創痍の体に鞭を打ち、床に投げ捨てられた小切手を拾い家へ帰る。

工場から家への道のりは工場から10分程歩いた先のバス停からバスに乗り市街地へ向かい、着いたバス停から更に3分ほど歩く場所だ。

工場からバス停へ向かう。

歩くのも大変な位にボロボロで服も所々破けてボロボロな状態だ。鼻からは血が、口の中は切れて鉄の味が鼻から口から広がる。

足を引きづりながら何とかという思いで私はバス停に着いた。

それから、5分ほど待っているとバスが着き私はそれ乗る。

バスの中は人がまばらに座っており何とか私も自分の定位置的なポジションに座ることに成功する。

後ろから2番目の右の座席、それが私の定位置でありお気に入りのポジションなのだ。

目的地までのバスからの景色は酷いものだった。

リーマンショックで人々は職にあぶれ、ホームレスで生活することも珍しくなかった。

人々は絶望という感情の中で生きていた。

裏路地に入れば金を盗られ、女が1人で歩けば無事で帰るのは奇跡、男は鬱憤晴らしに殴られ、蹴られ、ボロ雑巾のように扱われる。

表では「Give me a job」(仕事をください)の看板を持った人々に溢れて町は混沌の様を成している。

バス停に着くとバスを下り、家までの道をボロボロなまま行く。

今日は死んだように眠れそうだな。そう思いながら家までの道をたらたらとしかし着実に進める。


そうするとふと着けられていることに気づく。後ろを向くとにやにやした顔で私を見ている。

知らないフリをしようと前を見るとにやにやした男が私を見ている

終わった。と思った。


「なぁ、おっさん。金、置いてけよ。それで許してやる」


彼らはにやにやしながら私に言った。

私は観念して小切手を血の着いた震える手で渡した。

10代だろうか3人の若者はそれを奪い取った。


「そうそう。わかればいいんだよっと!」


そう言いながら私の腹を殴った。

あぁ、勘弁してくれもう辞めてくれ。私が何をしたというのだろう。

真面目に生きて、真面目に働いていたはずた。そんな私がこんな目に合ってもいいのどろうか。

あぁ、神よ。神はおられない。こんなクソみたいな状況をお救いになられない神なんて居られても神ではない。それは悪魔だ。

あぁいっその事悪魔よ我に力を与えたまえ。私に救いあれ。

私の事をお救いになられない神を殺すことの出来るくらいの力を私に与えてくれ。

あぁ、あぁ。


気がつくと路上で寝ていた。周りは暗かった。

激痛のする体起こし周りを見渡すとホームレスの老人がこっちを見て気持ちの悪い身の毛もよだつような笑い方で笑っている。

私は重い体を起こすと家までの道を途中こけながらも歩いた。

レンガ調の8階建ての建物。エレベーターは壊れて3回に1回は動かなくなるので管理人が来るのを待たなければならない。

社会の底辺にはお似合いの建物。

私はエレベーターで5回まで上がる。無事上がってくれたエレベーターに感謝の念を送りながら重い体を玄関へと向かわせる。

家の扉を開け。散らかったゴミ箱のような部屋に帰りつく。

服をゴミ箱に投げ捨てながら脱ぐと、ソファーに腰掛けた。

震える手でタバコに火をつけ、震える手でブランデーをグラスに注ぐ。

タバコの味など全くしない。口の中のブランデーは傷口に染みるばかりで何をしてるのかと思うが妙に手は止まらない。

市が経営する病院から処方してもらった精神安定剤、ビタミン剤などを7.8錠一気にブランデーで流し込む。


私がこんな目にあっていいはずもない。なぜ私ばかりが奪われ無ければならないのだ。

私も奪う側の人間になったっていいじゃないか。

真面目に働いても何も報われないこの世の中なんてクソ喰らえ。


そう思いながら酒飲んでいたらいつの間にか寝ていた。


そこから1週間で金は尽きた。最初のうちは水でしのいでたが水も出なくなるといよいよ焦りが生じてきた。

私は上手く考えられない頭でどうにかして金を用意しなければならない。しかし働く場所など無い。何をどうすればいいか分からない。

底なし沼に沈んでいくような感覚の中で一筋の光が見えた。


「そうだ、私も奪えばいい」


私は隣の部屋に人が帰ってくるのを待った。

隣の部屋には若い女性が、住んでいた。たまに男を連れ込んでおりむしゃくしゃしていたのだ。

私はナイフを握る手に力を入れながら今か今かと人が帰ってくるのを壁に耳を当て待っていた。

どれくらい時間が経っただろうか。

それすらも曖昧なままついにその時は来た。

ガチャと音がして靴が床を弾く音がする。

さて行くかと部屋の扉を開けようとした時に足が止まる。

私は思いとどまった。

ほんとにそんなことをしてもいいのか。奪われた人の気持ちを考えたら。

そんな事をぐるぐると頭の中で言葉が回る。

私は残っていたブランデーを瓶ごと一気に煽るとタバコに火をつけ、玄関の扉を開けた。

右手にナイフを持ち、トン……トン……と玄関の扉を叩く。焦る気持ちが出ないようにできるだけ普通にお隣さんに挨拶するような気持ちで扉をトン……トン……と叩く。

中から返事の声がする。カチャっと鍵を開ける音がする。

私は右手のナイフを背中へ隠しながらニコッと微笑みかけて相手に安心させるような顔を作った。

私は背中に冷や汗が垂れるのを知覚するくらいには敏感になっていた。

女性が顔を出した。

私は穏やかな声で囁きかけながらナイフを相手につけながらこういった。


「金目のものをよこせ。そうすれば命は助けてやる」


女は酷く取り乱しながら私に何か言ってくる。

私はそんなこと聞こえないとばかりに女性の腕を切りつけ、もう一度同じ事を言った。

そうすると女は観念したようで大人しく金を渡してきた。


「渡したからと言って助けてやる義理はない」


私はナイフを女の喉元に突きつけた。

生肉を切る時とは違う不思議な感覚を手に覚える。

死んだ肉とは違う生きた肉。まるで蠢くようにナイフに絡みつく筋肉のようなそれ。私は不快に思って抜いて次は胸の当たりを刺した。

そうすると次はあまり不快に思わなかった。

女は最初の喉のひと突きで声を出さなくなった。2回目に胸を刺すと動かなくなった。そうすると女は女から肉塊に変わった

私は人の死体を初めて見た。

そうすると私は酷い空腹に襲われた。1週間食べてなかったのを思い出す。

酷い空腹感に誘われた。何か食べるものと思うと目の前の肉塊に目がいった。

それはどんな馳走より今は美味しくそうに見えた。

私は肉塊に刺さったナイフを引き抜き肉塊を解体した。

解体しているとそれはどんどんと光り輝やいてみえてきた。

一つ一つの部位が極上の肉だ。心からそう思った。

私は解体した肉をひと切れ取ると肉塊の家の台所で肉を焼いた。

熱したフライパンに油を引いてそれを焼いた。肉の焼ける香ばしい匂いが家中に広がった。

私ははやる気持ちを抑え丁寧に極上品の肉を焼いた。

さながら骨付きステーキだ。

鼻歌を歌いながら焼きあがった肉を肉塊の元へ行って食す。

肉は少し筋張っているが、それが食べ応えになってとても美味しい。

肉の味は極上の牛のような味がする。あぁ。たまらない。なんで私はもっと早く気づかなかったんだ。


こんなに美味しい肉があるのに。


私はたらふく焼いて食べた。焼いた肉でブランデーを煽った。最高にいい気分になった。

そして私はふと痩せて居る肉塊を見て思った。

あぁ、太っている肉はどんな味がするんだろう。


その日は酔って寝た。


次の日朝起きるとまた酷い空腹に襲われたので昨日の肉塊の余りを食べた。

やはり味は美味しい。

しかし、太った肉は美味いのか。1度気になってしまったらそれのことしか頭に思い浮かばない。

あぁ、どんな味がするのだろう。どのような硬さななのだろう。


肉を摘みにブランデーを飲みながらそのことしか頭に思い浮かばなかった。


いつの間にか寝てた。

外を見てみるとちょうど昼をすぎた頃だった。

この時間は何をしてたかとふと思い浮かべると、仕事が終わる時間だと気づいた。

忌々しい仕事のことを思い出し機嫌が悪くなる。思い出したくもなかった。

しかし、そこでひとつのことに気づく。


居るじゃないか太った肉が。


私はそのこと気づき、神に感謝した。いいや、神じゃなく気づかせてくれた悪魔に感謝した。そのようなことを考えつくなんて悪魔にしか無理な所業だからだ。


私はナイフをカバンの中に入れて家から徒歩3分のバス停へ向かう。

外は昨日までと違って光り輝いて見えた。キラキラとした空気、絶望に満ちた表情のホームレス達。

少し歩くと道端に死体が転がって居た。

その顔には見覚えがある酷く身の毛がよだつような笑い方をするホームレスだ。

あの老人の死体がここにある。

私は今思えばそれが身の毛のよだつような笑い方ではなく神の福音のような笑い声だと思った。

私は老人に十時を切るとバス停へ向かった。

バス停へ向かう途中見た顔があった。


あぁ、あの肉塊共だ。


良くも私を苔にしてくれたな肉共。

私は後ろからずっと彼らに近づくと1人の肉塊の首を刺した。

1人の肉塊が喚いている。横の取り巻きのような2人がどうしたと騒いでいる私は気にも止めずに別の肉塊へナイフを刺した。

またもう1人の肉塊が騒いだ。うるさい。黙って欲しい。

3人目の肉塊が逃げたので好きにさせる。

私は1回目2回目刺し、転げ回っている肉塊に何回も何回もナイフを突き刺した。


満足した私はバス停へ向かった。

足取りはまるでクリスマスで浮かれている子供のように軽かった。

バス停につき、暫く待つとバスが来た。


工場への道のりの中で私は1人でに笑っていた。

他の人は気持ち悪そうに私を見て私の周りに誰も座ろうとしなかった。

しかしこの気分は笑わずに居られなかった。

初めての事にワクワクする子供のようだった。

鼻歌を歌い、笑いながら、バスに揺られていると工場へ着いた。

工場への道はまえと打って変わってスキップで向かっていた。

バックの中に入ったナイフがカチャカチャと音を立てて鳴っている。

そんなことを気にしないとばかりに私は工場へ向かった。


工場へ着いた。はやる気持ちを抑えて工場長室へ向かった。

汗くさく、油臭く、人間達の底辺が集まる場所の奥の部屋。

ご馳走はそこにいる。楽しみでしかない。

あぁ、早くご馳走にありつきたい。食べたい。どんな味がするのだろう。

早く私に食べられておくれ。


扉の前へ着くと深呼吸をしてゆっくりと扉を4回叩いた。

トン……トン……トン……トン……。

中から肉がどうぞという。私は焦る気持ち抑え入室した。


「なんだお前は二度と姿を見せるなと言っただろう!!」


肉塊は言った。

それはそうだ、あれだけボコボコにした人間がまたなぜ姿を見せるのか不思議なはずだ。

私だったら不思議で仕方がない。

私はニヤけそうになる口を沈めるために深呼吸を1回した。


「ここではたらかせてください!給料は安くて構いません!!どうかお願いします!!!」


私は土下座してその言葉を言った。

肉塊はその言葉を待っていた用でにやにやしながら私に向かってきた。

まだだ。まだ抑えろ私。私は立ち上がる時にゆっくりとナイフをカバンの中から取りだし後ろに手を組むように隠した。

肉塊は私に近に近づき、手を差し出した。


「分かってくれればいいのだよ。わかって……?」


話してる途中で刺した。肉塊がなにか叫んでいる私はナイフをまた刺した。

そうして転がっていった所に何回も何回も何回も刺した。

気がつけば肉塊は息をしておらず、私自身も何分たっていたか分からなかった。その歓喜の瞬間は長く、永かった。


私はその場でゆっくりとひと切れ肉を切り取った。

はやる気持ちを抑えて口の中にゆっくりと運ぶ。

咀嚼……咀嚼……ゆっくりと咀嚼し嚥下する。


あぁ…なんて美味さなんだろうか。それは今まで口にした何よりかも甘美な旨味に溢れ、私の口の中で旨みが踊る。私はもっと求める。

1切れだけじゃない2切れ、3切れ、食べているうちにいつの間にか骨だけになってしまった。


骨も美味そうに見えたのでしゃぶってみると髄液が口中に入ってきて口の中でのハーモニーがたまらない。


あぁ、なんて……。美味いんだろう……。私はもっと美味いものを食べたい……。

今度は私の番なのだ。


あぁ、もっともっとだ……。











どうだったでしょうか??

ちなみに彼を見た人はもう見ないとか……。

変わりに変にしゃぶられた骨だけが見つかる事件があるそうな……。

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[一言] うふぅ♪ 美味かったです♪  ごちそうさまでした♪
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