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そのいち

「酷い!! 酷い!! 何であたしだけのけものにするのよぅ!!」

 半泣きで叫ぶのは土の精霊の王の片割れである土精女王である。

 風の精霊の王の片割れであるエアは同僚とでも呼べる存在の絶叫ととち狂っていると言っても差し支えないような現状に頭を抱えたくなった、同じくその場に居合わせた水精女王と火精女王も似たような顔をしている。

「お、落ち着いてください、あなたをのけものにしたわけでは……」

「じゃあなんなのよぅこの集まりは!! なんであたし以外の女王がみんな揃ってお茶会してるの!!? しかもこんな状況で!! 女王で集まってるならなんであたしだけのけものにするのよぅ!!」

 土精女王の言い分はごもっともである、エアだって自分が同じことをされたら静かにキレる。

「待ってください。少し長い話になりそうなので、とにかく頭を冷やしてほしい。説明はしっかりするので」

「何よぅ!!? 言い訳するつもり!!?」

「まず、これは女王として集まっていたわけではありません」

「はあああ!!? 全員女王じゃん!! 訳わかんない言い訳なんて聞きたく」

 エアはその言葉を遮ってはっきりとよく聞こえるように声を張った。

「これは、同じマスターに従うものの集まりだ」

「…………は?」

 土精女王の目が点になる、無理もないだろうとエアは思った。

「実はマスターと我らの間に致命的な認識違いがあることが発覚したのです。それも含めた対策を皆で話し合おうと……」

「はああああああ!!!? マスター!!? そんな話一個も聞いてないんだけど!!!? というかどの国に呼ばれたっていうのよぅ!! 大体あんたらが召喚済みっていうなら、人間達の間で王を召喚しようだなんて話は出ないはずでしょう!!?」

 わーわーと土精女王は喚き散らす。

 しかしこちらにはその言動を非難することはできない、それどころか非はこちらにあった。

「報告していなかったのはすみませんでした。マスターが生きているうちに王が召喚されるような厄災が起こるとは思っていなかったので……前回の厄災からまだ五十年、これほど早くに厄災が起こるとは……」

 最近人間界で起こり始めた厄災、それと同じ規模の厄災が前回起こったのは今から約五十年前。

 これと同じ規模の厄災は基本的に数百年に一度程度の間隔でしかこない、人間の寿命は長くてもせいぜい百年程度なので、エアは今のマスターが生きているうちに厄災が起こるとは思っていなかった。

 厄災が起これば人間達は世界がどんな状況であっても互いの手を取り合い協力して厄災に対応し、人間だけで太刀打ちできなければ精霊の王の力を借りる。

 それが古くから行われてきた厄災への対応だ。

 しかし、五十年前は『厄災は打ち倒され世界は救われた』では終わらなかった。

 厄災後に、世界的な大戦争が起こったのである。

 そして召喚されていた精霊の王達も、その戦争に巻き込まれた。

 契約により人間のマスターに縛られていた精霊の王達はマスターに逆えず、マスターが命じるままに酷使された。

 五十年前に呼ばれた王達は今この場にいる女王の片割れである王達だったが、彼女達は自分の片割れが人間達から酷い仕打ちを受けていたことを知っている。

 そして現在、人間達は自分達への仕打ちを忘れ、厄災を打ち倒すために王達の召喚を行おうとしている。

 そんな状況で一人だけ呼ばれていない精霊の女王の集まりがあればその一人がキレ散らかすのは当然である。

 エアだって同じ状況に置かれていたらブチ切れる自信しかない。

「まず、最初に伝えておきます。人間達は誰一人、我らがすでに召喚されていることを知りません」

「はあ? ……なにそれつまり、誰かが勝手に誰にも気付かれないようこっそりあんたらを呼んだってこと? けどあたしらを呼べる規模の召喚陣って滅茶苦茶厳重に管理されてるはずじゃ……ってか、一人も知らないってのはおかしいじゃん!! 少なくとも一人は絶対に知ってるはずでしょ!!?」

「……知らなかったから、集まっていたのです」

 エアは深々と溜息をつきながらそう言った。

「はあ?」

「……我らは人間達が厳重に管理している召喚陣をよういて召喚されたわけではありません。そもそも、マスターに我らを呼ぶ意思は全くなかったので」

「はあ? 何言って……? 王を呼ぶつもりもないのに王を呼ぶとかあり得ないじゃん。ってか王を呼ぶつもりがなかったなら、一体何を……」

「うさぎとアザラシと猫です」

 エアの言葉に土精女王は目を点にした。

 無理もない、エアだって当事者でなければ同じ顔をしているところだ。

「は? なんて?」

「うさぎとアザラシと猫です」

「うさぎと、アザラシと、猫……? それってどんな? 王を差し置いて呼ばれたがっているのって、どんだけやばいやつ?」

「子供が両手で抱えてちょうどいいくらいの小精霊ですよ」

「はい?」

 混乱しすぎて逆に落ち着きを取り始めた土精女王にエアは小さく溜息を吐いた後、片手で顔を覆った。

「……端的に言ってしまうと」

「言ってしまうと?」

「マスターは召喚に『失敗』して我らを呼んでしまったのです」

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