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後編


「それで、何かあったんですか」


 魔王様の寝室まで来ると、ニノンは魔王様の衣裳を脱がせにかかる。とはいえ、後ろのボタンや結ばれた紐など、一人で解くには難しい箇所の手助けを終えれば、着替えを手渡し居室へと踵を返す。

 扉は開け放しているので、魔王様が着替えている寝室と居間とで会話は可能だ。ニノンはこれで問題ないと思っている。


 魔王様は寝室で一人着替えながらあぁそうそう、となんてことないように話し出した。


「魔王様と聖女様対面は、そりゃ王国でも一大イベントだったみたいでね。注目の的だったんだけど」


 挨拶をして、言葉を交わす。どんな言葉がやり取りされるのか、皆が固唾をのんで見守っていた。

 その時だった。

 魔王様よりもずっときらびやかな衣装で現れたのは、王国の第三王子。自信たっぷりな顔つきで魔王様と当代聖女の間に割って入り、聖女の手を取った。魔王様の方を自慢げに見やって。

 さらには、人垣の奥からわざわざその場に連れてこられた、一人の貴族令嬢。彼女は驚愕の眼差しで王子を見上げた。王子は、蔑んだ眼差しを取り繕いもせず、宣言したのだ。


『魔王、私は、あなたとここにいる全ての者たちを証人として、宣言する。今日、この時をもって、我が婚約者との婚約をーーーー!!』




「てな勢いで、破棄したんだよ」


 ニノンは開いた口が塞がらなかった。


「は? え? 第三王子殿下が? その場で? 婚約を破棄したんですか? 魔王様の前で? え?」

「なかなか、僕もお目にかかったことのない馬鹿王子だったね」

「えっと……。それで……」


 なにがどうなったのか。ニノンが続きを促すと、うんうん、と魔王様が笑いながら頷いた。


「それで、第三王子は次に当代聖女へ求婚するわけさ。この僕の前でね」

「なっ」


『そして、当代聖女よ。私とお前が結ばれるための障害はこれで無くなった。我が妻として、迎え入れてやろうではないか!』

『お断りします』




「その場で断ったんですか!?」

「即答だったよ」


 続きは気になるのに、ニノンはつい話の腰を折ってしまう。いや面白かった、と魔王様は繰り返す。


「さすが聖女様だったよ。第三王子相手に一歩も引かず、誰もいえないことを言ってのけてくださった」





『王子殿下と公爵家の御令嬢は、婚約をしてから長く、その間に育まれた信頼があったかと思います』


 当代聖女は、何か言いたげな第三王子の言葉を制して、さらに続けた。


『その求婚をたとえ受け入れたとしましょう。また同じことを繰り返さないと、どうして信用できますか?』

『は……?』

『ですから、長く婚約関係にあった女性を悪し様に言い捨てるような男に求婚され、喜ぶような女性がいると本気で思いますか? と聞いています』


 広間に沈黙が満ちる。話になりませんね、と当代聖女は嘆息し魔王様へと向き直った。


『御前にて大変失礼をいたしました。王国を代表し陳謝申し上げます。せっかくの機会でしたが、わたくし、大変な後始末をこれからせねばなりませんので』


 今あったことを国王陛下に奏上し第三王子の処分を決め、公爵家へ名誉回復、王家と和解のための仲立ちなど。当代聖女は神殿の象徴として、請け負う雑務がたった今山積みになった。


『本当に残念ですが、お茶会後の会談は中止にさせてくださいませ』


 それでは、とお辞儀をして、当代聖女は身を翻し去って行ったのだった。






「いやぁ、面白いものを見たよ、本当に」


 着替えを終えて、就寝前のお茶を飲みに寝室から顔を出した魔王様は、ちょうどよくニノンが差し出したカップを受け取る。

 長椅子に腰を下ろして、かたわらに佇むニノンを見上げた。


「聖女アンと同じ顔でまったく違う性格だったから、面白くて。長く記憶を引き継いでいるとこういうこともあるんだね」


 貴重な経験だったよ、と魔王様はお茶を飲んで、一息ついた。さて、今日はもう休もうか、と早々に会話を切り上げて寝室に向かおうとするので、手が止まっていたニノンは慌ててその後を追う。寝台に入ろうとする魔王様の横をすり抜け掛布をめくり、寒くないように首元まですっぽり覆う。


「昔みたいに一緒に寝るかい?」

「いつの話をしてるんですか。そんなこと言ってる暇があったら早く休んでください。お疲れでしょう」

「変に頭が冴えてしまってるんだよ。当代聖女があんまりちぐはぐだったから」


 息を吐くのと同時に、魔王様の体が寝台に沈む。掛布の中で寝返りを打てば、顔のほとんどが枕に埋まった。


「聖女アンは、ああいった時、あんな風に振る舞うなんてこと、なかったからね」


 目を閉じながら、うとうとと魔王様は囁く。その閉ざされたまぶたをじっと見つめながら、ニノンは言葉少なに相槌を打つのみだ。


「どうせ生まれ変わっているなら、聖女でもなんでもない普通の民草として、幸せに、好きなことをしていると、いいけど」


 平穏を愛する少女だった。その特別な力からあれよあれよと担ぎ上げられ、その優しい性根から人間と魔族の間に立つこととなってしまったけれど、それは、果たして彼女が本当に望んだことだったのだろうか。

 魔王様は今でも時々考える。

 聖女アン、君の本当の望みは、なんだったのか。




 寝息を立てて動かなくなった魔王様を眺めながら、ニノンは灯りの始末をしていく。寝台横のテーブルに水差しを置いて、窓のカーテンを閉めた。


「魔王様はいつもそうやって、生まれ変わってるかどうかもわからない、聖女アンの心配ばかり」


 最終確認を終えて、魔王様の居室を後にする。ニノンはこれから残った雑務の確認と、明日の準備だ。魔王様が不在の間に終わらせるはずだったのに、羽目を外した魔族や魔物の対応によって結局領内を駆けずり回る羽目になってしまった。

 ニノンが魔王城の外まで赴いて騒動の尻拭いをしていることが知られれば、ニノンも担当者もただでは済まない。羽目を外した魔族は言わずもがな。なんとしても魔王様がお休みになっている間に処理しなければならなかった。


 魔王様と聖女アン。人間と魔族の仲を取り持ち、魔王様よりも先に黄泉路を渡った女の子。生まれ変わって必ず会いに来るだなんて、厚かましく女々しいことを言って魔王様を縛った最悪の阿婆擦れ。


「さっさと忘れて、魔王様こそご自分の幸せを見つければいいのにね」


 自室にたどり着いたニノンは、山積みになった仕事にため息をつきながら「もうひとがんばり」と気合いを入れた。このまま眠れば嫌な夢を見そうだったのだ。


 好きな人には、忘れられない人がいる。

 それがどうした、くらい言えなければ、そもそもニノンは恋なんてしていない。

 こういうのは、理屈じゃないのだ。そこは諦めている。




「何百年経っても変わらない、馬鹿な人」


 引きずったままの思考を打ち切らなければならないというのに、吐き出す言葉を止めるすべを、ニノンは持っていなかった。


「あの頃も今も、好きなことしかやってないのに」


 何百年も経って、再び巡り合って、名乗り出る前にかつての自分の話をされたとする。

 それ、いったいだれのことですか? というほどに美化されていたとする。


「一生、名乗り出てやるもんですか」


 深く深くため息をついて、ニノンは頰を叩いた。

 今は、魔王城にて魔王様の所有物としてお側にいる。それは今生の出生を考えるに望外の幸運なので、これ以上の高望みはさしもの神様も許しはしないだろう。



っていう話が読みたかったので書きました。


魔王×所有物


安全圏から隠れて恋してるつもりが足元すくわれるところが見たいな…。

当たり前の所有物として余裕ぶっこいてたらかっさらわれて慌てふためくところも見たいな…。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーの構成がいいです。 きちんと魔王様のご機嫌を察知し、処理できるカッコよさ がいいなーと思いました [一言] この続き、魔王様が気が付いて あっけにとられるところが見たいです
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