人魚姫に幸福なキスを。
ある夏の夜、彼女は現れた。
ひた、ひた、ひた。
こんこんこん。
騎士団城塞の門を叩く影がある。
門番はランタンをかざして驚いた。
人魚がいる。
虹色に輝く鱗に覆われた魚の尾を光らせ、その上半身は青い髪の美しい乙女である。
「あ、あの……」
人魚の娘は彼らの驚きなどお構いなしに、透き通る声で尋ねた。
「私、リディアって言います。ここにアラン・ミドルトン様はいらっしゃいますか……?」
アランは応接間に引っ張り出され、人魚と対峙させられた。
アランは頑丈な騎士そのもの。とりたてて美しい風貌でもないが、男でも見惚れるほどの非常に騎士らしく逞しい体躯をしている。
仲間は応接間にかじりつき好奇心の鬼と化し、口々に野次を飛ばしている。
「いいか?」
アランは剣の切っ先を人魚に向け、喧噪に負けぬよう腹から声を出した。
「何かあれば貴様を叩っ斬る!」
そんな彼を、人魚はぽうっと顔を赤くして見つめる。
「近くで見てもやっぱり素敵だわ……」
「……話聞いてるか?」
「あの、アラン様お願いがあります!」
リディアはずいっと匍匐前進した。
「人間に愛されれば、人間の姿になれると言う薬を魔女から貰いました!よろしければ是非、私をお嫁さんにして下さい!」
応接間の周辺が大いに沸いた。アランは悩まし気にこめかみを押さえる。
「……はぁ?」
「お願いです。私をお嫁さんに──」
「お嫁さんにしなかったらどうなる?」
「海の泡になります!」
「知ってるぞ、その話……」
「まあ。ご先祖様の伝説が、人間の地にも……?」
「悪いが、魚類は愛せない。他を当たれ」
「そ、そんな……あなたに愛されなければ私は泡になって死にますよ?それでもいいんですか!?」
応接間の周辺から声が飛ぶ。
「愛してやれよー!」
「減るもんじゃねーだろ!」
アランは怒鳴り返した。
「こんな化け物を愛せるか!」
リディアはショックを受け、仰向けになってしくしくと泣き出した。
「そんな……ひどい……」
押し殺すような泣き声が部屋に響き渡り、一気にいたたまれない空気が流れる。
女っ気のないアランは年頃の少女の涙を初めて目の当たりにし、大いに慌てた。
「なっ、泣くな!」
「だって……私はあなたをこんなに恋い慕っておりますのに」
「さっきから気になるのはその話だ。どこで俺のことを見た?なぜ俺を恋い慕っている?」
「覚えてないのですか?あなたに出会ったのは、海の中です」
「海の中……?」
それでアランは気がついた。
「まさか、あの日溺れていたのは──」
それは、五年前の海での出来事だった。
騎士団に入るため船で移動していたある夜、海の中で溺れている少女を見つけたのだ。
泳げる騎士の中で一番の下っ端が自分だったので、アランは命綱をつけて飛び込まされた。
捕まえた少女を陸に上げ、毛布でぐるぐる巻きにしてから近くの修道院に世話を頼み、再び船に乗ったのだが──
「まさか、五年前の修道院の……?」
「ああっ、それです!覚えていてくれたんですね!」
リディアは気を取り直したように上半身を起こした。
「人魚を助けたとは不覚だった。修道院にはさぞかし迷惑をかけたことだろう……」
「ともかく……あの時は本当に助かったんですよ?」
「どういうことだ」
「あの時は私、道に迷っていたんです。ちょうど新月だったり曇っていたりで星や月の動きがない時だったので、岸までの方向が分からなくなって」
「そうだったのか……」
「ですからその時から私は助けて下さったあなたを慕い、修道女から情報を得てあなたを探し続けておりました。そこで魔女に薬を──」
「ちょっと待て」
アランは人魚の話を手で制した。
「薬を飲んだのにどうして喋れるんだ?」
人魚はぎくりと凍った。
「伝説によると、その薬は声と引き換えに貰えるものらしいが?」
リディアは冷や冷やと脂汗を垂らす。アランは全て見透かしたように彼女を見下ろした。
「こいつは嘘をついている。魔女から貰った薬など、飲んではいない」
リディアは青くなっている。彼は静かに言った。
「……俺は嘘つきは嫌いだ」
アランは剣を収めた。
「おい、みんなこいつを捕らえろ。この化け物はよからぬ策謀を持っているに違いない」
騎士たちが、恐る恐る応接間に入って来て人魚を取り囲んだ。
「こいつは牢へ入れる。海からまた何が来るか分からない。お前ら、気を張れ!」
そう言うなり、アランはリディアを抱き上げると、地下へ向かって歩き出した。
リディアは顔を真っ赤にして、ぽうっと騎士を見上げる。
「……何だ」
熱い眼差しに耐え兼ねてアランが問うと、リディアは胸元からひょいと小瓶を取り出した。
「これが、魔女から貰った薬です」
アランは驚きにリディアを取り落としそうになった。
「お、おい……!」
「あなたに会ってから飲もうと考えていたんです。会えないのに飲んだら大変ですし、人魚であることを隠して近づくのも悪い気がして」
「そりゃそうだが……嘘をつくのはよくない」
「あの、嘘はついていません。王子に事情を説明出来ずに失敗したご先祖さまの轍を踏まぬよう、今回は声を渡さず、大金を積んでこれを手に入れたのです」
「……」
どうやらリディアなりに色々考えた上で、薬を飲まずに来たらしい。
アランは嘆息した。
「まあいい。薬を飲んでいなかったことは幸いだ……」
リディアはその言葉に胸をときめかせた。
「アラン様……それって……」
「化け物を愛さずに済む」
リディアは再びうなだれた。
牢には既に別の騎士が先回りしており、陶器のバスタブを運び込んでいるところだった。
アランはリディアをバスタブの中に入れると、むくれている彼女にそっと手を差し伸べる。
「リディア」
恋し人に名を呼ばれると、途端にリディアの目が輝き始めた。
「その、魔女から貰った薬とやらを寄越せ。何かあって君が泡になってしまっては困る」
リディアはためらう様子を見せたが、アランの真剣な眼差しと交換するように、その小瓶を差し出した。
小瓶の中には虹色に光る液体が入っており、ネックレス用の革紐がついている。
アランはそれを首から下げた。
「あとでそこに海水を入れてやる。君は魚だからな。ところで──」
アランはずっと気になっていることを尋ねた。
「君はどうやって岸からここまで来た?」
リディアは意気揚々と答えた。
「匍匐前進です!」
次の日。
人魚が大通りを匍匐前進していたと言う市民の声が多数騎士団に寄せられ、騎士会議の場は苦笑に包まれた。
「……女だてらに行動力のある奴だ。で?アラン。君はこの件をどうする?」
上官だらけの会議に引っ張り出されたアランは難しい表情を作ってはいるが、耳は真っ赤だ。
「どうって……私のことは諦めて海に帰って貰いたい。それだけです」
「説得出来そうか?無理矢理海に入れても、また帰って来るだけだぞ」
「そうですね……」
「この件はなるべく君に任せたい。海の中の法律はどうなっているか分からないし、思わぬ方向から怒りを買って攻撃を受けたらたまらない。当事者間で解決して貰いたいんだ」
アランが沈むように考え込んでいた、その時だった。
「その魔女の薬とやらは君が持っているんだろ?それを飲ませて、彼女を海水にぶち込めばいい。泡になって消えるじゃないか」
ある上官がそう言って笑った。アランは凍りつく。
「……なっ!」
「何を驚くことがある?それが一番てっとり早い」
実はアランは昨日の夜、リディアの言うことがにわかには信じられず、海岸に寄って魔女の薬を少量魚に飲ませる実験をしたのだ。
その魚を試しに浅瀬へ投げ入れたところ、本当に一瞬にして泡となって消え去った。
愛されれば伝説の通りに足が生えるのかは分からないが、飲んでから海水に入れば泡になるというのはどうやら本当らしかった。
その覚悟を引っ提げて、彼女は自分に会いに来ていた──
焦るアランを見兼ねて他の上官がフォローする。
「殺したなんてバレたらどうなるか。化け物たちが黙ってはいないだろう」
「何を言います。誰かが何か言って来たら、恋に破れて薬を飲んで自害したと、こう話せばいい。死人に口なしだ」
「まあ、それも一案か……」
アランはじっと会議を聞きながら、テーブルの下の両拳をひっそりと握り締める。
そして、意を決するように上官に割って入った。
「あの」
会議室の時が止まる。
「本件は全て私にお任せ下さい。必ず彼女を説得し、穏便に海へ帰します」
上官たちは目配せし合った。
「……そうだな」
「とにかく穏便にやってくれよ。街や海に混乱を来さぬようにな」
誰もこの件に関しては関わりたくないのは明白だった。化け物相手は誰にとっても分が悪すぎる。
アランは牢に戻ると、バスタブの海水に頭まで浸かって不貞腐れているリディアに声をかけた。
「……会議は終わった」
リディアは水面から頭を出すと、不安げな瞳でアランを見上げる。
「海へ帰ろう、リディア。下手をしたら君は殺される羽目になる」
リディアはこくんと頷くと、無言で目をこすった。
「じゃあ……その魔女の薬、返してくださる?」
アランはどきりと固まった。
「なぜ返す必要がある」
「……それを飲んで、海水に入ります」
「馬鹿なことを言うな。死んでどうする」
「……私が死んでも、あなたには関係ないことでしょう?」
アランは苛立たし気に息を吐いたが、
「いや、関係ある」
と返す。リディアは彼に期待の視線を投げかけたが、
「さっき、軍会議で皆に約束した。君を必ず穏便に海へ返すと」
そう聞くや、彼女は口をへの字に結んだ。
「だから死なせるわけには行かないんだ。分かってくれ」
リディアは理解を示すように何度か頷いた。
「……分かりました」
アランはそれを聞いてほっとした。が、
「でも、海へ帰るのにはひとつ条件があります」
リディアがそう言い出したので、アランは悩まし気に首を横に振る。
「……いいだろう、その条件とは何だ?」
「私とデートしてください、アラン様!」
「……は?」
「こうなったら、一生に一度の思い出作りをします。死ぬまでそれを思い出に海で暮らすの。魔女の薬はあなたに持っていてもらうわ。ね、それでいいでしょう?」
気を取り直したようにカラ元気に振る舞うリディアを見て、アランは憐れに思い観念した。
こうなったら恥ずかしいとか化け物だからとか、四の五の言ってはいられない。
久方ぶりに仕事から離れ、アランは街歩きを許可された。
リディアは年頃の娘の格好をさせられ、車椅子に乗せられていた。それを押し、アランは街へ出る。
城塞の向こうには、青い海。
「陸から見る海って、綺麗!」
リディアは尾ひれをばたつかせて喜んだ。
髪の色が青い以外は、普通の女性とまるで同じだ。
「……どこへ行く?」
「食事がしたいです。お腹が空いているの」
アランが黙って車椅子を押していると、リディアが尋ねた。
「アラン様が好きな食べ物って何ですか?」
「……魚かな」
「そうなんですね?私と一緒!」
街角の食堂に入ると、アランはいつも自分が好んで食べているものを何品か注文した。
テーブルを挟んで、向かい合って座る。
リディアの透き通るような青白い肌と、青い髪に青い瞳。なのに指先は血が通って、ほんのり珊瑚色。
「……アラン様?」
アランは我に返り、ぼんやりする頭を上げる。
「お疲れですね?」
「……まあな」
「あなたを困らせたこと、謝ります。どんな女性であれ、押し掛けられたら迷惑ですよね。ましてや化け物なんかに……」
アランはひとつ咳ばらいをした。
「……その」
「はい」
「昨日君に投げつけた〝化け物〟という言葉は、今日取り消す」
リディアはそうっと上目遣いになって、アランを見上げる。
「……そうですか」
「話していて分かった。君にも人と同じような心がある」
「……そうですね」
「昨晩、この薬をその辺の魚に飲ませてみた。海に入れたら、本当に泡になって消えたよ」
リディアはなぜか、微笑んだ。
「ふふふ、そうなんです」
「その覚悟は称賛に値する。……好ましいかどうかは別だが」
リディアはむず痒そうに笑い、もじもじとアランの全身をくまなく眺める。
「あの、少し私のお話を聞いてもらえますか?」
食事の前に、冷たいグレープフルーツジュースが運ばれて来た。
「……聞こう」
「実は私、親に決められた結婚相手がいるんです」
そう言って、リディアは窓から青い水平線を見つめた。
「結婚相手?」
「はい。相手はクラーケンです」
アランはたまに浜に打ち上げられるダイオウイカを思い浮かべた。
「……まるで種族が違うな」
「海の中は一夫多妻制です。私は人魚姫の六女ですので、クラーケンの側妃になる予定なんです」
「……」
「種族違いなので生殖も出来ません。ただ、お互いの領土に不可侵でいるための人質として嫁がされるわけです」
「……そうか」
「だから私、ずっと人間に憧れていました。生涯一人と婚姻し、愛を誓い合う人間に」
「実際のところはそうでもないぞ」
「あら、そうなんですね。でも、基本的にはそうだと聞いています。それが羨ましくて羨ましくて……だからあの日の夜、私は家出をしたんです」
アランはほの暗い記憶の底から、あの日のリディアとの思い出をようやく見つけた。
震える小さな体が、自分の腕の中で次第に熱を帯びる瞬間を。
「人魚にも男性がいるんですよ。でもみんな泳ぎに特化した体で、ヌルヌルしてぷよぷよなんです。だからあの日あなたの逞しい腕に体を挟み込まれた時、体中に電撃が走ったようでした。気がつけばもう、あなたのことしか考えられなくなっていたんです……本当に、私ったら馬鹿ですよね……」
そう言って視線を戻して来たリディアを、アランはじっと見つめ返した。
「……そんなに自分を卑下しないでくれ。とにかく、必ず海へ無事に帰って欲しいんだ」
食事が運ばれて来る。
「……分かりました」
小さく呟くと、リディアはナイフとフォークに集中して魚の塩焼きを食べ始めた。
腹を満たすと、アランは車椅子を押して別の路地に入る。
リディアはわくわくと周辺を眺めた。そして、はたと土産物屋に目を留める。
「あれ、何かしら」
アランはその店を見るや自分の中に沸き起こって来る謎の感情に戸惑ったが、とりあえず答えた。
「雑貨屋だ。この街の特産品を売っている」
「ここの特産品って何かしら……?」
「……貝を彫って作るアクセサリーだ」
「えー!素敵素敵、見たい見たい!」
ぴちぴちと尾ひれをばたつかせるリディアを押し、アランはその店に入った。
店の中のショーケースには、小さなカメオのアクセサリーがずらりと並んでいる。
「色んな人の顔が彫ってある……」
「動物や花を彫っているものもある」
「へー……」
しばらくリディアがショーケースを眺めていると、なぜか顔を真っ赤にしたアランが言った。
「……ひとつだけなら」
リディアは驚きに顔を上げる。
「買ってやってもいいぞ」
リディアは目を輝かせ、再びショーケースに視線を戻した。
「か、買ってくれるんですか!?」
「……この街に来た記念に」
「ありがとうアラン様!どうしよう……目移りする……!」
そう言いつつも、リディアはすぐにある髪飾りを手に取った。
男女の横顔が並ぶ構図の、桜色のカメオ。
「……それがいいのか?」
リディアは夢うつつの表情で、首を何度も縦に振った。
アランは店主に代金を支払い、再び車椅子を押して街へ出る。
リディアは美しい髪飾りを贈られ、それを色んな角度から飽かず眺めるのだった。
浜辺にはネモフィラの大群とユウガオの大群がひしめき合っている。
そこに車椅子を停め、アランはその隣に腰を下ろした。
「……夜は気づかなかったけど、この浜辺にはとてもきれいな花が咲いているのね」
浜風を浴びながらそう呟き、リディアは幸福そうに微笑む。
彼女の手に握られている髪飾りを眺め、アランは問うた。
「……それ、つけてやろうか?」
リディアはきょとんとしていたが、ふわりと微笑んだ。
「……ありがとう」
髪飾りを手渡すと、アランのごつごつした指先が彼女の髪を滑った。
ぱちんと金属音がし、リディアはそれを合図にカメオの表面を撫でさする。
「……やっぱりあの日思った通り、優しかったわ。アラン様って」
アランは黙って前を向く。
「でも優しいから……今は、辛い」
アランはじっと耐えるように沈黙している。
「……私、そろそろ海に帰ります」
アランは小さく頷いた。
「車椅子であの崖の上に連れて行って下さい。私、あそこから海に飛び込みますから」
アランは黙って車椅子を押して行く。
浜辺を上がって少し小高くなった岸壁の際で、車椅子は止まった。
崖の下には、青い海。
「……最後に、お願いがあります」
震える声でリディアは言った。
「お別れの前に、一度抱き締めてもらっていいですか?」
アランは何も言わなかった。
だが言われた通りに車椅子に座った彼女の前に膝をつくと、手を伸ばす──
その時だった。
ぐいとアランの首にかけていた革紐が引っ張られたのだ。
気づいた時には、もう遅い。
リディアは魔女の薬をあおっていた。そしてアランを突き飛ばすと、車椅子ごと崖から落ちて行く。
「リディア!」
車椅子は海面に叩きつけられ、海の濁流に飲み込まれて行った。
そして、リディアも……
「さよなら……アラン様」
全てが泡になる──と思う。
が、その瞬間。
「……リディア!」
呼びかけられて服を引っ張られ、腰をしこたま打った。その衝撃で、リディアはぎゅっとつぶっていた目をぱちりと開ける。
気づけば、彼女は海面には叩きつけられておらず、泡にもなっていなかった。
背後から、彼女の首に太い腕が回っている。
リディアは落ちようとする刹那、抱き止められたのだ。
かつて海から引き上げてくれた──あの腕に。
「馬鹿!死ぬ奴があるか!」
アランの腕が背後からリディアをかき抱く。リディアはぼろぼろと泣いた。
「死んだら駄目だ!死ぬのは絶対……」
「だって……どうせ海に戻ったところで、クラーケンの奴隷になるだけですもの。死んだ方が──」
「……リディア」
「はい」
アランは絶望しているリディアの顎を強引に掴むと、己の方ににぐいと向ける。
そして、突如その唇を奪った。
リディアは呆然とアランを受け入れる。
再び唇を離した時、目の前が明るくなり、いつもの尾ひれの感覚がないことに彼女は気がついた。
ドレスの裾から覗いていたのは──珊瑚色の爪先。
リディアはその真新しい爪先をそっと動かす。
それから膝を立て、アランに向き直る。
「アラン様……?もしかして、私のこと」
アランは真っ赤になって額を掻きむしった。
「……なぜこんな大胆な行動が出来たのか、自分でもよく分からない……ただ俺は、リディアに生きていて欲しい一心で──」
「見て。あなたにキスをされたら、私の尾ひれが足になったわ」
「……みたいだな」
「ってことは、アラン様は……」
「認めたくはないが……どうもそういうことらしい……」
燃える顔を両手で覆うアランを見て、リディアはひとり悶える。
「私、人間になれました」
「……」
「愛の力で!」
「……やめてくれ……恥ずかしくて死ねる」
「結婚に一歩、近づきましたね!」
「リディアみたいな異種族を嫁にしたら、きっと昇進は出来なくなるし、下手をしたら騎士人生が終ってしまう……」
リディアは彼の悲観的な展望に眉をひそめたが、
「それでもいいなら……いいけど」
そうアランが続けたので、リディアは彼に再び抱きついてキスの雨を降らせた。