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十数分の非日常

作者: 井村つかさ

 私は目を覚ました。何か壮大な夢を見ていた気がするけども、枕元のスマホを手にとったときには全て忘れてしまった。真っ暗な部屋にスマホの画面が煌々と光っているのが、寝起きの私には眩しかったが今の時刻を確認する。


 午前二時十三分。


 私は丑三つ時に起きてしまったようだ。幽霊の類を感じ取ったことはないし、実際に存在するとも思えないけれど、わずかに周囲を意識してしまうのは不思議なことではないだろう。


 もう一度就眠するためにタオルケットをかぶって目をつぶるが、先程の光の刺激のせいか、眠りにつけない。羊が木の柵を何匹も飛び越えていくが、逆効果で徐々に意識が明瞭になっていく。二十二年の人生経験上、こうなってしまうと眠れないことは目に見えているので、一度飲み物を飲むことにした。


 冷蔵庫を開けると、二リットルペットボトルに入った水はほとんど空で、喉を潤すには足りなかった。水道水を飲むのは個人的に好きではないので選択肢には入らない。


 今日はうなされていた訳でもないのに目が覚めてしまい、飲水も残っていない。なんて運が悪い日なんだと心のなかで悪態をつきながら、私は徒歩三分のコンビニに足を運ぶことにした。


 真夜中の外は思ったよりもひんやりしていて、部屋着のまま玄関を出た私にとっては少し肌寒く感じるけれど、それが心地よい。普段外を出歩くときは、仕事に向かうときか、帰るときのみ。心の余裕をもって外の空気を感じるのは久しぶりであるからかもしれない。コンビニに寄るという目的があるとはいえ、自由気ままに歩くというのは悪くないと思う。


 コンビニにはすぐに着いた。五百ミリの水を買ってきた。所要時間は約一分といったところか。


 真夜中の空気に当てられながら歩くのが気持ち良いので、少しだけ遠回りをして帰ることにした。一分ほど歩いたとき、男が道端で横になっていた。見て見ぬ振りをして帰るのも頭に浮かんだが、心にしこりが残りそうであったので話しかけてみる。


「あの。大丈夫ですか?」


「……あぁ。大丈夫大丈夫」


 そう言って男は立ち上がって、立ち去ろうとする。


「水差し上げるのでどうぞ。お大事にしてください」


 私は男に水を手渡してコンビニに戻ることにした。しばらく歩いて振り返ったときには男の姿はもうそこにはなかった。


 もう一度水を買い、今度は何事もなく帰宅した。


 ~~~~~~~


(起きてから十数分の間に色々あったなー)


 普段とは違う真夜中の出来事を思い返しながら水を飲む。

 なんだか、いつもとは違う水の味がしたような気がする。


 今日は早起きしないといけないので、もう一度寝床につく。羊を数えることはなかった。


 ~~~~~~~


 アラームの音が聞こえる。外も明るい。不思議なことに出歩いたあとはぐっすりと寝ることができたみたいだ。人間……というか私は不思議な生き物である。


 顔を洗い、朝ごはんを食べ、スーツに着替え、化粧をして、家をでる。毎日のルーティーンワークだ。しかし、今日は少しだけ早く家をでた。


 昨日の夜――正確には今日の夜――に男に出くわした場所に足を運んでみたかったからだ。


 しかしそこには、普段と変わらない日常が存在していた。男の存在も、一言二言の会話も、ふとした私の思いやりもそこには見る影もない。


 私は踵を返し、駅に向かっていった。心なしか、足取りはいつもよりも軽かった。

読了してくださりありがとうございます。投稿テストも兼ねて短編を初投稿させていただきました。

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