(故郷)39
奴隷達が恐々、姿を現した。
こんなに優しい僕達なのに、何て目色で見ているのだろう。
エリカが僕のロープの裾を引いた。
「優しくね」
この子も何を言っているのだろう。
優しい僕を知っている筈なのに。
理解していないのだろうか。
解せぬ、解せぬ、モヤモヤ、モヤモヤ。
「君達は外に避難しないのか」
厩務員一家の老人が代表して答えた。
「私達はご覧の様に奴隷です。
奴隷全員がここの生まれではないので、頼る先がないのです。
どうすれば宜しいのでしょうか」
逆に聞かれてしまった。
余所から買い取られた奴隷だと、制約もあり、避難先に事欠くと。
もっともな言い訳だ。
僕は全員の【奴隷の首輪】を詳細に鑑定した。
借金奴隷ばかり。
首輪は汎用品ではなかった。
所有者と使用者が明確に分けられていた。
所有者は伯爵、使用者は代官所の執事とメイド長。
施されている術式はナンバリングされていた。
50個まで複製できる製品。
錬金術中級辺りが関わっていそう。
面白い、挑もう。
面倒だから全員の首輪を同時に書き換えよう。
僕は首輪を鑑定魔法上級で観察しながら、
錬金魔法上級を重ね掛けした。
範囲攻撃を応用してエリアを確定した。
全ての首輪をロックオン。
術式に干渉した。
できた、容易い。
流石は上級の力。
これから行うのは所有者と使用者の名義変更のみ。
登録されている所有者と使用者の名前と魔波を削除し、
ジュリアと記入、僕の魔波を登録する。
それをイメージした。
「はい全員、僕が皆の【奴隷の首】を書き換えた。
僕が新しい所有者と使用者になった訳だけど、それが分かるかな。
たぶん、分からないよね。
だから試してみよう」
魔力の動きが分かったのか、幾人かが首輪に手を伸ばした。
触れて分かる訳ではないが、触れずにはいられなかったのだろう。
その他の者達は理解不能という顔色で、僕を凝視するのみ。
今はそれで構わない。
僕は言葉を続けた。
「僕の指示に従ってくれ。
まず右手を上げて」
全員が一斉に右手を上げた。
「左手上げて」
全員が万歳した恰好。
「右手、右手、右手下げ・・・ないで、左手を下げる」
幾人かが右手を下げ、慌て戻し、左手を下げた。
僕の意図が分かったのか、幾人かが噴き出した。
互いに顔を見合わる者も。
そう、笑うのは大事な事なんだ。
こういう状況は笑うしかない。
全員が状況を飲み込んだ所で、僕は彼等彼女等に質問した。
色々と確認し、これからの指示を下した。
全員が満足そうな顔で頷いたので、仕事に移らせた。
僕達は敷地内を見て歩いた。
池もあれば、野菜の畑もあった。
もしかすると庭師は野菜の世話もするのか。
であれば農夫兼任か。
そんな僕にはエリカが尋ねた。
「姉さん、奴隷は解放しないの」
「今は無理だよ。
行き成り解放すると、彼等の為にならない。
所有者に見つかると拙いことになるからね。
だから、まず僕の奴隷にする。
それから時期を見て開放する。
伯爵を片付けるまでだね。
それまで辛抱して貰おう」
本館の方が騒がしくなったので、僕は鑑定で調べた。
ギルドから人手が集まっていた。
僕は急いでそちらに向かった。
タルゼが先頭にいた。
レイガンもいた。
タルゼが言う。
「三つとも引き受けた。
後ろの連中が後片付けをする」
合図で冒険者達が動いた。
テキパキと死者と重傷者を分けた。
死者は荷車に乗せた。
重傷者はポーションを飲ませる、あるいは傷口に注ぐ。
そして包帯を巻いた。
生憎、軽傷者は存在しない。
様子を見ながらタルゼが更に言う。
「貴族達には通知の使いを出した。
理解してくれると思うが、どう出るかは貴族様方の判断だ。
それにギルドは関知しない。
・・・。
トランドの店にも使いを出した。
今に来るだろう」
タルゼの後ろから貫禄のある男が現れた。
冒険者の格好ではあるが、違和感しかない。
「お嬢さん、ワシはロバート・バイロウ」
姓が、家名持ちだ。
お貴族様。




