(故郷)36
代官の隣の火魔法使いが僕を指差して叫んだ。
「攻撃魔法が来るぞ」
水魔法使いが応じた。
水魔法を起動した。
前回同様、水の塊。
それをドームの頭上から落した。
代官が濡れたドームを観察し、火魔法使いに尋ねた。
「開けた穴からしか攻撃魔法を放てないと思うが、違うか」
火魔法使いが応じた。
「そうです。
先に攻撃魔法を起動、待機させ、
それから放出口を作るつもりなんでしょう」
「ふっ、魔法使いは面倒臭いもんだな」
「穴が開けられ次第、逆にこちらから攻撃魔法を撃ち込みます。
ドーム内なので衝撃が和らぐ筈です。
構いませんよね」
「程々の威力でな。
殺すのや火事は困るが、小火なら許す」
代官としては僕を治癒魔法かポーションで治し、
見せしめの為に公開処刑を行うつもりなのだろう。
だが、甘い。
代官だけでなく、水魔法使いも火魔法使いも甘い。
僕はすでに魔法を放っていた。
土魔法なのでドームに攻撃口を開ける必要はない。
足下から地へ流すだけで事足りた。
床自体が土魔法で固められた物なので魔法の通りが良い。
土魔法上級。
範囲を定め、ボグホルン。
表の兵士達を囲い、彼等の足下を沼地にした。
映像はないが、鑑定で次々に溺死して行くのが確認できた。
深さ3メートルの沼地に沈められては、まず生還は望めない。
そして即座に復元、沼地を旧に復した。
表に居て現場を目撃した者達が散った。
外に避難した代官所の使用人や通りがかりの野次馬だ。
巻き込まれまいと全力疾走で遠ざかった。
けれど、僕の目の前の連中は表の騒ぎには気付かない。
ドームに穴が開けられるを今か今かと期待した。
僕は敵対する者達を一気に倒す事にした。
土魔法上級を継続したまま、選択したのは土槍・アーススピア。
全員分を待機させ、それぞれの右足の踵をロックオン、ホーミング。
躊躇なく放った、Go。
幾人かの中級スキル持ちが怪訝な顔、足下に視線を落した。
代官もだ。
感付いただけでも立派なもの。
僕の土魔法は上級。
それに対抗できる訳がない。
室内を悲鳴と鮮血が支配した。
倒れ伏す者、転げ回る者、蹲る者。
全員が等しく打撃を受けた。
踵を撃ち抜かれだけでなく、腹部まで達した者も散見された。
惨劇を見ても、僕もエリカも動じない。
エリカはこの世界の生まれなので免疫があるようだ。
僕は・・・、僕は・・・、前世の記憶か、命の安さを理解していた。
人間は絶滅種リストには載っていない。
ゴキブリや鼠には負けるが、種としてはそれに近い存在。
地球規模の氷河期や大洪水等を生き残って来た者達の末裔。
互いに殺し合ったとしても種としての滅びはない。
小賢しいだけに厄介だ。
地球にとっては天敵、たぶん。
僕は鑑定で代官所内を調べた。
ここ一階フロアには負傷者か、もうじき出血多量で死ぬ者達のみ。
二階フロアと三階フロアには二十数名が残っていた。
武装している者はなし。
文官や使用人ばかり。
逃げ遅れたか、楽観的な者達なのだろう。
僕は彼等に向けて風魔法上級を起動した。
攻撃魔法ではない。
かと言って防御魔法でもない。
遊び心満点でそれを試みた。
僕の声を風魔法に乗せて建物の隅々にまで拡散させた。
「建物内に残っている者達に告げる。
君達の代官や兵士達は僕が壊滅させた。
それはこの悲鳴で分かる筈だ。
抵抗する気がないのなら、直ちに建物から出なさい。
抵抗するつもりなら、直ちに武器を取りなさい。
これは警告です。
二回しか警告しません。
残っている者は抵抗すると看做します」
警告を二回、繰り返した。
階上から物音、足音。
警戒しているのだろう。
まあ、初対面だし、仕方ないだろう。
安全であると分かると早かった。
ドタンバタンと忙しない足取りで階下へ駆け下りて来て、
代官達の惨状を見て、僕達を見て、何もせず、何も言わず、
表へと飛び出して行く。




