(故郷)33
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代官は読み進める書類から目を上げた。
深く溜息をつき、部下達の仕事振りを眺めた。
集中しているのか、誰も彼の視線には気付かない。
代官はデスクから離れた。
窓際に寄り、カーテンを少し上げ、外を見た。
三階からなので、見下ろす格好になった。
丁度、表通りに人陰を見つけた。
窓越しに観察した。
その者はローブ姿でフードを深く被っていた。
顔は確としない。
手には趣味の悪そうな杖。
たぶん、魔法杖のつもりなのだろう。
同じ恰好の小さな子がそれのロープの裾を掴んでいた。
こちらに杖はない。
二人の背格好から姉妹と推測した。
代官はカーテンから手を放した。
通行人に気を取られている場合ではない。
問題が起きた。
ヒトライム村に身を寄せているカリス村の生き残りが原因だ。
その一人の手によって手代が殺され、三名が負傷した。
それだけでは飽き足らず、よりにもよって、
代官と伯爵様を処刑すると公言したそうだ。
近日中に来ると言う。
相手は魔法使いの少女一人。
かなりの使い手だそうだが、騒ぎには出来ない。
中でも、特に伯爵には報告できない。
耳を煩わせてはならない。
領地を委ねられている代官としての面子がある。
沽券に関わる。
それに下手に騒げば伯爵家の他の寄子貴族の口から、
王都居住の伯爵に伝わる。
正しく伝わるのなら問題はない。
しかし、寄子貴族達にとって代官は目の上のたん瘤。
引きずり下ろす絶好の機会を逃す筈がない。
わざと曲解して、盛られて伝えられるだろう。
代官は代官所全体に箝口令を敷き、噂の流出を止めた。
たが安心は出来ない。
必ず漏らす者が出る。
それでも、少なくとも三日ほどは稼げた筈だ。
他の寄子貴族に知られる前に解決すれば良い。
代官としての権力をフル稼働してでも、だ。
それに代官は伯爵家の寄子貴族筆頭、爵位は子爵。
少ないながら、自前の兵を抱えていた。
隣接する屋敷が子爵邸なので、非常時には呼び寄せも可能だ。
代官は書類に戻った。
中断した処から再開した。
読み進めて行くが、後半になるにつれ、今一つ理解不能。
冒頭と意味合いが違う気がした。
再読した。
申請者は何を言いたいのだろう。
暫くして、重い空気を感じた。
嫌な空気だ。
これは。
近くで魔法が行使されてる感がした。
代官のスキルは剣と槍。
剣術初級と槍術中級。
スキルのお陰で何となく魔法行使が感じ取れた。
気になると居ても立っても居られない。
即座に立ち上がった。
驚いた部下達が手を止め、注視した。
代官は窓に寄ると、カーテンをむしり取る様に開けた。
敷地内を見渡した。
代官所の兵達が巡回している筈なのだが。
人影一つない。
さっきまでは二人一組で絶え間なく巡回していた。
特に今回は明確に命じた。
なのにこれは。
表門を見た。
あそこには門番が二人、立番している筈なのだが。
そこも人影一つない。
何か痕跡は。
血痕はなし。
兵士の物と思しき装備品もなし。
争った形跡もなし。
まるで神隠し。
むっ、所々の土が真新しい。
よく見ると芝生が剥がれていた。
何かを埋めたのか。
思案していると階下から声。
悲鳴だ。
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