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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
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(故郷)32

 トランドが僕に尋ねた。

「戦いってなんだ、何が始まる」

「気にするな、心配で禿げるぞ」

 トランドの声が荒くなった。

「俺達や店を何に巻き込むつもりだ」

「大丈夫だ。

何にも巻き込まれない、たぶん」

 奴隷なので不信はあっても、僕相手に暴れる事はない。

不承不承、引き下がった。


 その日が来た。

代官に会う約束の日だ。

僕は朝食を終えると皆を連れてテルーズ亭を出た。

僕と弟・ナギラ、猫人族のエリカとその祖母・エウメル。

弟の仲間、ベルとクラウス。

犬人族のメグと狐人族のベネロペ。

 念の為、鑑定を起動した。

辺りに不審な者は見当たらない。

代官所の者も、ギルドの者と思しき者もいない。


 皆をトランドの店に案内した。

エリカが真っ先に気付いた。

「ここは奴隷商よね」

「そうだけど、何の心配もいらない。

僕が店主を奴隷に落したから」

 エリカのみならず皆、口が半開きになった。

理解出来ないので、質問そのものが出てこない。

前もって命じていたので、借金奴隷・ブラビットが店先にいた。

僕を見て頭を下げた。

「おはようございます、ジュリア様」

 戸惑うエリカ。

他の者達も事情が呑み込めていない。

僕とブラビットを交互に見遣った。

「皆の食事や着替えは」

「指示通り、きちんとやっています。

二階に住まわせ、三食を与え、

好きな衣服を買い与えておきました」

「トランドは」

「現金が出て行くので顔色が冴えません」


 僕は皆を店に預けた。

「ここで待っててくれ。

ちゃちゃっと用事をしてくる」

 エリカが僕のローブの裾を掴んだ。

「いつも一緒でしょう」

「んっ、・・・しょうがないな。

分かった、後ろに隠れていること」

「うん」

 弟達も心配そうに僕を見た。

誰もが付いて行きたい、そんな顔をしていた。

でも、これ以上は連れて行けない。

守れる自信がない。


 僕は弟達に二階に上がる様に勧めた。

「ジッとしてれば安全だ」

 空気が読めない男がいた。

トランドだ。

「ヤバい事になるのか」

「何も知らない方がいい。

巻き込まれずに済むぞ」

「そんな訳がないだろう。

俺の金が減るだけで、良い事は何もない」

「金が欲しいのなら、家族を奴隷として売り払ったらどうだ」

 トランドが口を閉じた。


 僕はブラビットに後を委ね、エリカを連れて街中に出た。

「ねえ、行く先は分かるの」ローブの裾を引っ張る。

「行った事はないが、凡その場所なら分かる」

 信じる方向に足を進めた。

正解のようで、次第に行き交う者の服装が違ってきた。

買い物袋を持ったメイド、小ざっぱりした服装の若者。

荷物を背負った奴隷を連れた行商人。

立派な馬車が僕達を追い越した。

巡回する兵士も初めて見た。

その兵士の一人が僕達を一瞥するが、何も問わない。

 

 僕は目的地に近いと判断し、鑑定を起動した。

いた。

代官所の使用人なる男がいた。

大きな屋敷の通用門から出て来た。

どこかへ使いに出たのだろう。

小走りで走って行く。

 僕はその屋敷を一回りする事にした。

勿論、鑑定したままで、敷地内を詳細に調べた。

前回の傭兵団は怒りのまま、潰した。

お陰で何も手に入れられなかった。

その反省から、今回は周到に事前調査する事にした。

何か得る物はないか、何か得る物は・・・。

手ぶらで帰るつもりは毛頭ない。

 それから代官所の居場所は・・・。

護衛の数は・・・。

腕利きは・・・。


     ☆

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