(生贄)9
門衛が雁首を並べているが、
遺体満載の荷馬車を検める者はいない。
速度を落とすことなく通過。
石畳が敷き詰められた道路を駆けて行く。
深夜を過ぎているので通行人はいない。
僕は荷台から飛び下りた。
さて、どこへ行こう。
こんな深夜だから宿は閉まっているだろう。
鑑定で調べた。
大きな町には必ずある無料の宿泊所。
そう、スラム。
あった、みつけた。
『西町のスラム』
王都にある二つのスラムのうちの一つ。
表通りだと巡回の騎士か兵士に遭遇するかも知れないので、
裏通りの路地から路地を選んで歩いた。
それにしても身体全体が汚れていた。
滲んだ血が気持ち悪い。
我慢できず、歩きながら並行して光魔法を起動した。
衣服の洗濯と乾燥、柔軟な仕上がり。
加えてボディ洗い、洗顔、洗髪、歯磨き、艶出し。
おまけで排便、排尿。
これらをイメージした。
できた、簡単にできた。
魔力が全身を覆い、処理して行く。
ライトクリーンプラスと名付けた。
スラムは入ると、それと分かった。
埃と異臭が入り混じり、辺りに漂っていた。
鑑定によると大勢が住んでいた。
僕は人の少ない所へ向かった。
辺り一面の建物が半壊していた。
それでも住人がチラホラいた。
半壊している建物に住んでいた。
いや、不法占拠か。
今は全員が睡眠中だから僕に気付く者はいない。
僕は無人の半壊している建物に入った。
風魔法で埃と異臭を吹き飛ばした。
多少の物音はしたが、起きる者はいない。
気付いても無関心の筈。
僕は亜空間収納から敷きマットと毛布を取り出した。
騎士の野営用の物だ。
闇魔法中級を起動した。
ダークバリアを選択、半径2メートル、
高さ2メートルのドームを張った。
万が一に備え、何時でも攻撃できる様に屋根は開閉式。
これで空気以外の何物も通さないので安心して眠れる。
もっとも、相手の力量にもよるが。
手枕で横になった。
途端、疲れが僕を襲った。
煩い物音で目が覚めた。
スラムの住人達が動いていた。
僕も起きる事にした。
でも身体が重い。
疲れが抜けきっていない。
これはマッサージだろう。
雷魔法初級を起動した。
最弱のチリチリを全身に巡らした。
はあー、気持ちいい。
筋肉がほぐれる。
チリチリマッサージと名付けた。
仕上げは光魔法、ライトクリーンプラス。
何もかも身綺麗にした。
スッキリした。
毛布と敷きマットを亜空間収納に戻した。
闇魔法・ダークバリアを継続中なので空気は綺麗。
モーニングにした。
亜空間から竹コップと木皿を取り出した。
竹コップには水魔法を起動して魔水を入れた。
鑑定によると上質の飲料水。
飲むとHPとMPの回復効果有り。
木皿には亜空間から干し肉とパンを取り出した。
鑑定によると普通の食品。
では、いただきます。
異世界で初めての食事。
んー、普通に不味い。