(故郷)30
僕は鑑定魔法に錬金魔法を重ね掛けした。
熊人族・ブラビットの【奴隷の首輪】に干渉した。
魔水晶も、高度な術式もなし。
それは下位職の手になる汎用品だった。
僕は施された術式に触れた。
解錠はしない。
所有者を変更するのみの簡単なお仕事。
現所有者名を消して、新たな名前を入れた。
ジュリア。
新所有者の魔力を首輪が認識した。
ブラビットの身体が一瞬、硬直した。
直ぐに再起動。
眩暈の様にふらついた。
目元に手を当て、それから僕を怪訝に見返した。
行き交う者達がいるが、人目は気にしない。
僕はブラビットに光魔法を当てた。
ライトクリーンプラス。
着たままで洗濯、乾燥、柔軟な仕上がり。
入浴、洗髪、歯磨き、乾燥、艶出し。
排便、排尿。
ブラビットはただ驚くだけ。
僕は声をかけた。
「どうだい、身体の調子は」
「俺に、俺に何かしたのか」
「ちょっとね」
「・・・そうか、光魔法か・・・、だよな」
「分かりが早くて助かる。
そうそう、それから、僕が新しい所有者だ、これ大事」
「えっ・・・」不可解なとでも言いたげな表情。
「奴隷商人の名前を消して、僕の名前を入れた。
要するに、僕が君の新しい所有者だと言うことだね。
奴隷から解放される条件には手を加えていない。
だから前と同じだ。
それまでは僕にしっかり仕えてくれ」
「まさか・・・」目を点にした。
「ちょちょいと首輪の術式に手を入れた。
安物だから実に簡単だったね。
そうか、信じられないか。
試せば、はっきりする。
何か命じようかな」
ブラビットが僕を見回した。
理解が追い付いていないのだろう。
それも当然に違いない。
僕は背中を押すことにした。
「新しいご主人様として命ずる。
店主や店に関する情報を教えてくれ」
ブラビットは顔を強張らせた。
しかし、直ぐに口を開いた。
人が変わったかのように、流調に喋り始めた。
僕は鑑定を広げて店を調べた。
店の内情はブラビットの言葉通り、一点の間違いもない。
一階に店主がいた。
他に店員が八名、何れも借金奴隷ばかり。
拉致された者達は地下の牢に収容されていた、
犯罪奴隷や拉致された者は店員に相応しくないのか、
一人もいない。
店員の内訳は三つ。
ブラビットの様な護衛三名、拉致された者達を管理する者三名、
書類仕事を行う者二名。
僕は肩掛けバッグ経由で亜空間収納から魔法杖を取り出した。
それに対してブラビットは驚くが、何も言わない。
僕の言葉に従って店のドアを開け、先に立って案内した。
訝し気な護衛三名、ジロジロと僕を観察した。
それでも何も言わない。
奥の机から店主・トランドがブラビットと尋ねた。
「お客様かな」
僕は返事代わりに【奴隷の首輪】を取り出した。
風魔法で風を纏わせ、トランドに向けて飛ばした。
その首に装着させ、所有者を僕とした。
誰も動かなかった。
目の前の事態を見守っていただけ。
全員、危機管理能力が欠落していた。
まあ、奴隷身分では仕方がないだろう。
命令がなければ動かないのだから。
護衛達が再起動した。
腐っても腕自慢と言うところか。
しかし、足は踏み出さない。
僕はトランドに命じた。
「皆を大人しくさせろ」
トランドは拒否し、首輪を外そうとするが、外せない。
他に選択肢はなかった。
拒否した瞬間に首輪がちょっと絞まったからだ。
「ウグッ」
僕は催促した。
「早くしろ。
息ができなくなるぞ」
状況を理解したのか、トランドが言う。
「全員動くな」




