(生贄)8
森を抜けると一面、草地だった。
その先に踏み固められた道があり、広い川があった。
『ニュースロ街道』
アラリオン大樹海へ通じている街道。
『ゴーリン川』
アラリオン大樹海から流れて来る川。
川の向こうに高い壁が見えた。
あれが王都だ。
僕は橋を渡って王都を目指した。
『ムナトリ橋』
剛性強化の術式が施されている。
王都は深い水堀と外壁で囲われていた。
深夜なので当然ながら跳ね橋は上げられていた。
これでは入れない。
風魔法では。
水堀の幅は5メートル。
外壁の高さは10メートル。
試すか。
外壁上に人影。
巡回している。
これでは駄目だ。
鑑定した。
ここは北門。
付近は草地なので寝転びやすい平坦な場所を探した。
と、人が来た。
外壁の上を灯りが走って来た。
なんて明るい。
鑑定した。
魔道具【携行灯】を持った騎士と従士だ。
門の上から下を照らす。
僕は慌てて、その場に身を伏せた。
「よし、いいぞ、下ろせ」上から声が飛んだ。
すると歯車の動作音。
跳ね橋が下ろされた。
門が開かれた。
ドドッと足音。
大勢の騎士や従士が飛び出して来た。
おー、色んな人種がいる。
大半は獣人だ。
犬人族、猫人族、あれは狼人族、あちらには熊人族。
なんてファンタジー。
彼等の視線は僕の方には向けられていない。
僕の目の前を一隊が駆けて行く。
遅れて空の荷馬車が幾輌も連なって後を追う。
行き先は魔法騎士団駐屯地しか考えられない。
そう、僕が生贄として捧げられた施設だ。
落雷の報に接し、慌てて救援隊が差し向けられたのだろう
暫く身を伏せていたら、次々と荷馬車が戻って来た。
荷台には被災した者達が乗せられていた。
目の前を小さな悲鳴に似た泣き声ばかりが過ぎて行く。
時折、無言の荷馬車もあった。
荷台には遺体のみが乗せられていた。
誰が殺したんだろう。
あっ、僕か。
そもそもの原因は彼等にあるんだけど、でも、ごめん。
これが世の習いだから。
僕は移動した。
門からは見えない暗がりに身を潜めた。
戻って来る荷馬車を鑑定した。
待っていると、来た、来た。
チャンスが来た。
遺体のみを乗せた馬車が来た。
前後に他の馬車はなし。
馭者一人、遺体満載。
通り過ぎようとした。
これ幸い、僕は身体強化に風魔法を重ね掛けして飛んだ。
ひらり。
音を立てずに荷馬車の荷台に降り立った。
馭者は気付いていない。
綺麗な遺体はない。
圧死したと分かるもの。
どこか欠損しているもの。
そんな遺体ばかりだが、怯んではいられない。
彼等の間に潜り込んだ。
血が乾いていない。
ローブに滲みてくる。
でも我慢、我慢。
生贄といい、今といい、死体に縁のある日だ。
これが最後だと良いな、ねえ神様、
僕の人生の再スタートは最悪を通り越している、そう思わない。