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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
76/282

(故郷)19

 家に入ると肩掛けバッグ経由で亜空間収納から、

それぞれに土産物を取り出した。

エリカには街で人気のお菓子とお人形。

 「嬉しい」

 エリカは右手にお菓子、左手には人形を持ち、交互に見比べた。

キョロキョロ、キョロ。

どちらが嬉しいのか分からない。

まあ、いいか。


 弟・ナギラには白紙の束と竹ペン、インク。

小さなころから、今も小さいが、落書きが好きだった弟。

紙の束とペン、インクを見て大喜び。

「凄い、高かったよね、姉さん」

 確かに高かった。

竹ペンはそれ程でもなかったが、

紙とインクは子供が気軽に買える物ではない。

「子供が値段を気にするな」

 僕も立派な子供だけど。


 弟の仲間二人にも紙の束と竹ペン、インク。

「僕達にも」二人は大喜び。

「これで勉強するんだ。

読み書きと計算ができれば、世の中なんとかなる、たぶん」

「たぶんかい」弟が口出しした。

「ナギラ、絵を描いてもいいけど、

読み書きや計算した紙の裏に描くんだ。

約束だ、いいな」軽く睨んでやった。

「わっ、分かった、約束する」

 エリカが余裕の笑い。

「私が見張ってるわ」

 僕は思わず尋ねた。

「エリカ、貴女はしっかり勉強してるよね」

 エリカは口を噤んで、目を逸らした。


 子供達に街での冒険者生活を語っていたら、

この家を共同で借りてる大人達が戻って来た。

一人身になった女五名。

年長のエウメルが引率していた。

僕を見て、声を掛けて来た。

「お帰り、エリカ達が大喜びしただろう」

「ええ、煩いくらい」

「外にまで笑い声が聞こえて来たよ」


 僕は前世では処世術とは無縁であった。

当時は大人になりかけの少年で、考えたことすらなかった。

でもここでは違う。

子供だからと言って、それでは田舎での社会生活は営めない。

居候のそのまた居候なのだから。

弟たちは人質に取られたようなもの。

 僕は肩掛けバック経由でお土産を取り出した。

女性陣に好まれそうに物ばかり。

ハンカチやタオル、大量の布切れ。

石鹸に洗剤、化粧品に医薬品。

そして、街で大人の女性陣に人気のお菓子詰め合わせを人数分。

「気を遣わせて悪いわね」

 エウメルが苦笑い。

「気にしないで下さい。

他人の村なんです、色々と気苦労もあるでしょう」

「それを子供に言われるとはね。

ワシも年を取ったもんだ」 

「猫人族は人の倍は生きられるでしょう。

エウメルさんより僕が先に死にますよ」

「アッハッハッ、笑わせてくれるね」

 エウメルはもう一人の猫人と大笑いした。


 女性陣が夕食の準備に取り掛かった。

その様子を見て、僕はある発見をした。

五人は魔法使いではない。

生活魔法が使える程度。

そんな彼女達が生活魔法を巧みに使い、炊事や掃除、風呂、

それらの補助をしていた。

 少ない魔力で水を無駄なく溜める。

火付けと煮炊き、焼き物。

重ね掛けする者もいた。

それぞれが自分の魔力値を自覚しているのか、

空っぽにして倒れる者はただの一人もいない。


 俺はエリカを呼び寄せた。

「大人の人達の手伝いをして、魔力操作を真似た方が良い。

それが早道だ」

「お姉さんがそう言うなら。

上手くなったら私も冒険者になって良いんでしょう」

「上手くなったらな」

「約束よ」

「分かった」

 そこにナギラ達が来た。

「僕達も冒険者になりたいよ」

「村仕事は」

「親が死んだから自分の土地がないよ」ベル。

「農作業を教えてくれる身内もいないよ」クラウス。

 そしてナギラ。

「冒険者になって姉さんを助ける」

「僕もそう」ベル。

「僕も」クラウス。

 慌てたようにエリカが割って入った。

「私が姉さんを助けるわ。

私一人で十分よ」

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