(生贄)7
僕は外壁から飛び下りた。
森の中は月明かりが届かないので闇に包まれていた。
身体強化を継続しているので夜目が利く。
躓くことはない。
それだけでは不安なので鑑定も継続している。
更には右手には剣帯から抜いた鋼の短剣。
左手には収納から取り出した小さな鋼の盾。
用心に用心を重ねているが、魔物との実戦経験は皆無。
神経がズリズリ削られて行く。
何時までも森の中を徘徊している場合ではない。
鑑定の範囲を広げた。
近くには王都があった筈だが。
あった。
反対方向に見付けた。
『ベランルージュ王国の王都』
人口50万人。
踵を返した僕の鼻に異臭が。
臭い、臭い、腐っているのか。
それは風上から流れて来た。
鑑定でゴブリンを発見した。
それも三体。
僕と同じくらいの背丈だ。
こちらに向かって駆けて来る。
それぞれが棍棒を手にしている。
僕を獲物と認識してるのだろう。
僕は三体を一人で迎え撃つ自信はない。
でも、でも、スキルに剣術上級がある。
急場しのぎに頼る事に・・・、竹刀、いや、しない。
病弱は脱したが、これ以上、身体に負担をかけたくない。
僕が覚悟を決めるより先にゴブリンが襲って来た。
拙い、拙い。
慌ててバックステップ、そしてサイドステップ。
最後は大きくバックステップ。
身体強化様々。
僕は覚悟を決めた。
短剣を鞘に戻した。
鋼の盾は亜空間収納に戻した。
迎え撃つ。
風魔法を起動した。
初級の風玉・ウィンドボールを選択した。
破裂よりも貫通力特化とした、
サイズは野球の硬式ボール三発、待機。
イメージで三体の左胸をロックオン、
自動追尾するホーミングを意識し、願って念じた。
問答無用で放った。
命中。
上がる悲鳴。
左胸に穴が空き、鮮血が飛び散った。
三体が無様に転倒した。
鑑定が即死と判定した。
ゴブリンの部位は売り物にならぬが、
討伐証明として右耳を切り取り、
冒険者ギルドに提出すれば褒賞金が出る。
小さいながら体内にある魔卵を取り出せば、これも売れる。
魔卵は魔物の体内で魔素が溜まった物だ。
卵の様な形状をしているので、そう呼ばれる。
それは常識だ。
この魔卵には三種類がある。
中身が異なるのだ。
外側の殻を割ると卵液が詰まっている物。
つぶつぶの砂が詰まっている物。
魔素が一つの塊になっている物。
卵液はボーション等に混ぜると効果が倍加する。
それで薬師ギルドが高価で買い取ってくれる。
砂は金属等に混ぜると、これまた効果が倍加する。
こちらは鍛冶士ギルドがお得意様。
塊は魔水晶等の原材料になるので、錬金術士ギルドへ。
小さな塊でも複数集めて結合すれば何の問題もないそうだ。
けど、臭い。
これ以上、近くにいるのは無理。
けれど処理しておかねばアンデッドとして蘇る可能性が。
指先で触れて亜空間収納に取り込んだ。
解体、仕分け、右耳三つと魔卵三個を手に入れた。
不要な部位はゴミに仕分け、粉砕して地中に放出した。
念の為、指先にライトクリーン。