(故郷)5
タルゼに大金貨三枚を手渡し、
引き換えに預かり証を受け取った。
全てが、失敗してもだが、その時点で清算し、残金は返すそうだ。
これ以上は望むべくもないだろう。
「お願いします」
タルゼを外まで見送った。
小さくなるタルゼの背中を見ながら、エリカが僕に尋ねた。
「任せっ放しにはしないんでしょう」
僕とエリカは冒険者ギルドの出入りが見える位置に陣取った。
横丁の陰だ。
街にはスラム住まいの浮浪者も多いので、怪しむ奴はいない。
陰から出入りする奴を鑑定した。
それらしい候補を何人かいた。
その日の夕刻、見つけた。
タルゼと一緒に出て来た奴だ。
入る時も鑑定したが、二人の雰囲気からそうだと断定した。
「名前、レイガン。
種別、虎人族。
年齢、43才。
性別、雄。
出身地、パラディン国。
住所、パラディン国、エロールイ市。
職業、冒険者。
ランク、C。
HP、115。
MP、45。
スキル、生活魔法(水、火、風)」
二人を尾行した。
エリカの修業かたがた、会話を盗み聞かせた。
「耳をあの二人の会話に集中させるんだ。
ただし、接近は禁止だ。
虎人族だから、警戒はお手の物だと思う。
慎重に距離を置いて尾行しよう」
エリカ任せにはしない。
僕は僕で盗み聞いた。
「ブラッシユの連中に伝手があるのは信用してる。
しかし、お前は大丈夫なのか。
知り過ぎて殺されないか」
「心配してくれるのか、ありがとな。
だが安心してくれ。
奴等も外との伝手は必要なんだ。
情報、買い物、売り捌き。
その窓口の一人が俺って訳だ」
「他にも何人かいるのか」
「そりゃそうだろう。
俺だって不死身って訳じゃない。
どこで野垂れ死にするか分らん。
その時に困らぬように何人か用意してる」
「そういうもんか」
「そういうもんさ、この手の商売はな」
ランクは僕がDで奴がC。
奴が上位者だが、総合的には僕の方が遥かに上も上。
比べものにもならない。
奴が獣人特有の勘で尾行に気付くが、
その前に僕は奴の前兆を読み取り、エリカを連れて物陰に隠れた。
そんな遣り取りも何度か。
ついには奴の方が諦めた。
「おかしいな、今日は神経が過敏になっているようだ」
「さっきから尾行を気にしてるが、誰もいないじゃないか。
懐が暖かいせいじゃないか。
滅多にお目にかかれない金額だもんな」
「金額が金額だからな。
誰の依頼だ」
「知らぬ方がいい」
「なら聞かぬか」
レイガンはタルゼと別れて宿屋に入った。
僕達は夜通し見張る訳には行かない。
女子供がここらにいたら怪しまれる。
そこで一計を案じた。
以前、鑑定に本来はなかったマップ機能を取り付けた。
なら、これも出来る筈だ。
マップに追加で、奴をマークして追尾する機能、ストーカー。
イメージしたら出来た。
為せば成る、何事も。
テルーズ亭に戻った。
安心して食事して寝た。
気付いたら寝落ちしてた。
若さの特権だろう。
早速、鑑定・マップを起動した。
ストーカー。
レイガンは市内にはいなかった。
北へ移動していた。
早さからすると馬車のようだ。




