(生贄)6
鑑定を継続したまま外に出た。
次は食料。
直ぐに見つかった、
騎士宿舎の先にあった。
大食堂。
時間柄、誰もいない。
明かりも点いていない。
怠慢か、施錠もしていない。
夜目を利かせて侵入した。
光魔法のライトを点けた。
厨房に入った。
包丁や鍋等が目に入った。
さあ泥棒、泥棒、大泥棒。
厨房の器具を根こそぎ亜空間収納に盗り込んだ。
厨房の奥が貯蔵庫になっていた。
ここも施錠していない。
生鮮食品はないが、塩漬けされた肉や魚がふんだんにあった。
粉物や珍味、各種調味料も。
ここまでくると遠慮する理由がない。
これも盗り込む、盗り込む。
僕の泥棒は終わらない。
こうなると最後はお金。
鑑定で見つけた。
一番高い建物、本館に金庫を見つけた。
速攻で目指した。
流石に表玄関には警備の騎士と従士がいた。
建物内に詰め所もあり、四名が控えていた。
好んで人を殺すつもりはない。
だって今の僕は女の子。
建物の陰に潜んだ。
鑑定の3Dで金庫のありかを調べた。
南側の二階にあった。
そちらに回った。
人の気配はない。
身体強化に風魔法を重ね掛け。
ジャンプして金庫室の窓に取り付いた。
武骨な鉄格子に厚い窓ガラス。
お利口な大泥棒の作法は音を立てないこと。
そこで、重ね掛けで錬金魔法と亜空間収納を起動した。
ささっと鉄格子とガラスを溶かして亜空間収納に盗り込んだ。
室内にお邪魔様。
金庫は室内の右の一角にデンと据えられていた。
大きさを例えるとすると2tトラックだろう。
扉は人ひとりが余裕で入れる大きさ、材質は鋼。
鍵穴は二つ、それに術式が施されている。
その中には貴金属、金塊、各種硬貨が保管されている。
それも大量に。
ここで時間をかけるのは怪盗の名折れ。
音を立てずに侵入して、手早く盗み、速やかに退散する。
その解答は・・・、金庫ごと亜空間収納に盗り込んだ。
ほんとう、亜空間収納上級の性能は凄いの一言。
さあ退散、退散。
僕は誰に遭遇することなく、無事に外壁の上に着いた。
後は逃げるだけ。
でもなあ、僕の中のジュリアが納得しないと思う。
何かを置き忘れた気分、釈然としない。
振り返った。
もう深夜に近い。
建物の灯りも幾つか残っているだけ。
平穏な空気が漂っていた。
とっ、一角が騒がしくなった。
騎士宿舎から十数人が駆け出て来た。
騎士と従士の二人が戻らぬ事に気付いて、捜索隊が出たのだろう。
それぞれ別個の方向に急ぎ向かう。
僕はMPの残量を確認した。
82/99。
あれだけ消費したのに、回復が異常に早い。
僕はジュリアの無念を晴らす為に雷魔法を使う事にした。
上級の範囲攻撃の一つ、トルネードサンダー。
MP数値は術者が任意に決められる。
MP消費量40で起動した。
狙いの中心は一番高い本館の尖塔。
範囲は敷地一帯。
真上から螺旋を描いて尖塔を突き破る電撃とし、躊躇いなく放った。
直後、尖塔真上の中空で雷鳴が轟いた。
ガラガラ、ガラガラ、ガシャーン。
間髪を入れずに稲妻が、夜空にジグザグに走った。
閃光が尖塔を大きく映し出した。
空気を震わせて続け様に落雷。
ドドーン、ドドーン。
初撃が尖塔を逸れ、右隣の建物に着弾。
第二撃が左隣の建物。
第三撃が本館の壁。
第四撃目にして尖塔を直撃、破壊、貫通した。
第五撃は野外神殿。
落雷と落雷の合間に、
巻き込まれた者達の悲鳴らしきものが聞こえてくる。
でも彼等に同情はしない。
当然の報いだ。
計二十発が駐屯地全域に着弾した。
尖塔が完全に崩れ落ちただけでなく、本館本体も半壊。
敷地内の建物全てが被災した。
ジュリアも大満足だろう。