(故郷)1
プルセヌ川沿いの道を下って行くと、それらしい村が見えて来た。
木柵で囲われた農地の中に、更に木柵で囲われた村があった。
『ヒトライム村』
人口二百人。
農地の入り口に門番二名がいた。
そう言えばここまでの村や町では見かけたことがない。
ベランルージュ王国では門番がいるのは普通の光景だったが、
この国は習慣が違うのだろうか。
盗賊や紛争が勃発してるにしては意外な事実に今、気付いた。
その門番に尋ねられた。
「見ない顔だが、この村に何の用事かな」
エリカが初めて前に出た。
「こんにちは。
隣のカリス村の生き残りです。
お祖母ちゃんがここでお世話になっていると聞いたので、
会いに来ました」
若い門番がエリカを繁々と見た。
「ああ、猫人族の」
すんなり通してくれた。
その際、僕は疑問をぶっつけた。
「門番がいるのを初めて見ました。
他の村や町にいないのは、どうしてなんですか」
年嵩の門番が苦笑いして教えてくれた。
「真っ先に殺されるのが門番だから、なり手がいないのさ」
だからか。
それはそれで拙いだろう。
悪党が入り放題だ。
領主は責任放棄したのか。
この国は悪党放置国家で、
自国民を奴隷として輸出するのを国是としているのか。
あっ、そう言えば、国内に入ってからだが、
街道を巡回する騎馬隊や領兵を見ていない。
村の中でも、町の中でも、それらしい姿は見かけていない。
もしかすると税金は徴収するが後は自己責任なのか。
「うちの村長は冒険者上がりだから、この手の事に詳しくてな。
何かあれば鐘を撞いて村中に知らせるんだ。
魔物の接近とか、盗賊の接近とか、合図が決められているから、
何があったのか直ぐに分かる。
それによって村の防備体制が取られる。
何かあれば村人全員で戦うのさ」門番が自慢した。
その門番によるとカリス村からの避難民は、
無人の家屋が三棟あるので、それに収容しているのだそうだ。
教えられた家屋にエリカと入った。
「お祖母ちゃん」
台所で煮炊きしてしていた小さな人が振り返った。
ジュリアの記憶にあるエリカのお祖母ちゃんだ。
驚いて手に持っていた布巾を落とした。
「エリカかい」
小柄な猫人が軽やかに動き、エリカを抱きしめた。
「名前、エウメル。
種別、猫人族。
年齢、75才。
性別、雌。
出身地、パラディン王国。
住所、パラディン王国、ヒトライム村。
職業、村人。
ランク、D。
HP、57/85。
MP、23/45。
スキル、生活魔法(水、火)」
ついでだからエリカも。
「名前、エリカ。
種別、猫人族。
年齢、8才。
性別、雌。
出身地、パラディン王国。
住所、パラディン王国。
職業、無職。
ランク、F。
HP、20/35。
MP、30/30。
スキル、生活魔法(水、火)」
エリカは少し変化していた。
例えば住所・・・。
そのエリカはエウメルの胸元でボロボロ涙を零していた。
これまでの鬱積を吐き出しているのだろう。
「アンタが無事でよかったよ、本当によかった」
震える背中を祖母が優しく撫で回していた。
生き残った村人で他に頼る人や家がある者は、そちらへ向かい、
当てのない村人達がここに移り住んだそうだ。
既に前の村に見切りをつけた者達はこの村で働き、
前の村に未練を残した者達は暇をみては、
村の後片付けに戻っているそうだ。
エウメル婆さんは苦笑いで言った。
「わたしゃ、先が短いから、この村で死ぬさねえ」
猫人は150才くらいまでは生きるので、まだ人生の折り返し地点。
そう指摘すると、さらに苦笑いされた。
「はっはっは、人が大勢死んだんだ。
そんな村で過ごすのは勘弁しておくれよ」




