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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
58/282

(故郷)1

 プルセヌ川沿いの道を下って行くと、それらしい村が見えて来た。

木柵で囲われた農地の中に、更に木柵で囲われた村があった。


『ヒトライム村』

人口二百人。


 農地の入り口に門番二名がいた。

そう言えばここまでの村や町では見かけたことがない。

ベランルージュ王国では門番がいるのは普通の光景だったが、

この国は習慣が違うのだろうか。

盗賊や紛争が勃発してるにしては意外な事実に今、気付いた。

 その門番に尋ねられた。

「見ない顔だが、この村に何の用事かな」

 エリカが初めて前に出た。

「こんにちは。

隣のカリス村の生き残りです。

お祖母ちゃんがここでお世話になっていると聞いたので、

会いに来ました」

 若い門番がエリカを繁々と見た。

「ああ、猫人族の」


 すんなり通してくれた。

その際、僕は疑問をぶっつけた。

「門番がいるのを初めて見ました。

他の村や町にいないのは、どうしてなんですか」

 年嵩の門番が苦笑いして教えてくれた。

「真っ先に殺されるのが門番だから、なり手がいないのさ」

 だからか。

それはそれで拙いだろう。

悪党が入り放題だ。

領主は責任放棄したのか。

この国は悪党放置国家で、

自国民を奴隷として輸出するのを国是としているのか。

 あっ、そう言えば、国内に入ってからだが、

街道を巡回する騎馬隊や領兵を見ていない。

村の中でも、町の中でも、それらしい姿は見かけていない。

もしかすると税金は徴収するが後は自己責任なのか。


「うちの村長は冒険者上がりだから、この手の事に詳しくてな。

何かあれば鐘を撞いて村中に知らせるんだ。

魔物の接近とか、盗賊の接近とか、合図が決められているから、

何があったのか直ぐに分かる。

それによって村の防備体制が取られる。

何かあれば村人全員で戦うのさ」門番が自慢した。


 その門番によるとカリス村からの避難民は、

無人の家屋が三棟あるので、それに収容しているのだそうだ。

教えられた家屋にエリカと入った。

「お祖母ちゃん」

 台所で煮炊きしてしていた小さな人が振り返った。

ジュリアの記憶にあるエリカのお祖母ちゃんだ。

驚いて手に持っていた布巾を落とした。

「エリカかい」

 小柄な猫人が軽やかに動き、エリカを抱きしめた。


「名前、エウメル。

種別、猫人族。

年齢、75才。

性別、雌。

出身地、パラディン王国。

住所、パラディン王国、ヒトライム村。

職業、村人。

ランク、D。

HP、57/85。

MP、23/45。

スキル、生活魔法(水、火)」


 ついでだからエリカも。

「名前、エリカ。

種別、猫人族。

年齢、8才。

性別、雌。

出身地、パラディン王国。

住所、パラディン王国。

職業、無職。

ランク、F。

HP、20/35。

MP、30/30。

スキル、生活魔法(水、火)」


 エリカは少し変化していた。

例えば住所・・・。

そのエリカはエウメルの胸元でボロボロ涙を零していた。

これまでの鬱積を吐き出しているのだろう。

「アンタが無事でよかったよ、本当によかった」

 震える背中を祖母が優しく撫で回していた。


 生き残った村人で他に頼る人や家がある者は、そちらへ向かい、

当てのない村人達がここに移り住んだそうだ。

既に前の村に見切りをつけた者達はこの村で働き、

前の村に未練を残した者達は暇をみては、

村の後片付けに戻っているそうだ。

エウメル婆さんは苦笑いで言った。

「わたしゃ、先が短いから、この村で死ぬさねえ」

 猫人は150才くらいまでは生きるので、まだ人生の折り返し地点。

そう指摘すると、さらに苦笑いされた。

「はっはっは、人が大勢死んだんだ。

そんな村で過ごすのは勘弁しておくれよ」

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