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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
55/283

(道中)23

 僕達はすんなり町を出た。

阻もうとする者も、見送りもなかった。

それどころではなかったのだろう。

街道を西に荷馬車を走らせた。

しばらくは道なりだ。

 

 二日目の町で僕とエリカは皆と別れた。

「ここで皆とはお別れだ。

僕達はこの先の山道から村に戻る」

 大嘘だ。

あれだけ皆の前で攻撃魔法を披露したのだ。

安全になった今、皆の関心が僕に集まるのは仕方ないこと。

でも、それに気安く応じるつもりはない。

個人情報の秘匿は何より蟹より大事。

 僕が口が固いので、皆がエリカに向かった。

ところがエリカも心得たもの。

口が固い。

調子に乗って鎌をかける者も現れた。

そうなると鬱陶しい。


 僕とエリカは二人で街道をテクテク歩いた。

ここまで来れば急ぐ旅でもない。

後は村に戻るだけ。

まだ見えないけど、見えたも同然。

 途中で魔物を狩り、夜営しながら村に向かった。

子供の足で三日目だ。

見覚えのある山。


『アイリール山』

パラディン王国の高山の一つ。


 その山の麓に村がある。

自然、エリカの足が軽くなった。

「お姉ちゃん、アイリールだよ。

ついに帰って来たんだね」涙声。

 僕はエリカの背中に手を当てた。

「まだあるから、落ち着いて歩こう」


 それから三日目、遠くに町の外壁が見えて来た。


『ウルマ市』

オールマン伯爵の領都。

人口十万人。

王国の食糧庫の一つ。

縫製業と酒造業でも栄えていた。


 夕方、領都に入った。

村の手前の領地だ。

真っ先に宿屋を探した。

とにかくエリカを人のいる所で休ませたかった。

口では強がるが、限界に見えた。

「この町で疲れを取ってから村に戻る。

それでいいな」

「うん、疲れたよ、お姉ちゃん」

 見るからに高そうな宿屋を見つけた。

二人部屋で風呂トイレ、朝夕二食付き、大銀貨2枚。

フロントの者の顔は、子供二人に払えるのかと猜疑心あらわ。

ローブの裏のポケット経由で亜空間収納から取り出しすと、

笑顔で手のひら返し。

「お嬢様お二人、ご案内」


 温かいお風呂と柔らかいベッドで疲れが取れたらしい。

エリカは元気。

「お姉ちゃん、早く村に帰ろう」

 その前に冒険者ギルドに立ち寄った。

ギルドカードは世界共通だと説明を受けたが、

自分の目で確認することにした。


 ギルドは直ぐ見つかった。

朝だから混雑していた。

依頼の受注ではないから、買い取り窓口に回った。

ここも裏に設けられていた。

窓口の職員が僕を二度見した。

「見かけない顔だね。

見習いの新人かい」

「ええ、登録はベランルージュ王国です。

ここまで来る途中で狩った魔物の部位を売りたいのですが、

その前にカードが使用できるどうか確認お願いします」

 僕は冒険者ギルドカードを手渡した。

「普通、見習いは国から出れないんだけどね。

でも、来ちゃったわけだ。

しかたない、それじゃ調べようか」

 職員は【真偽の魔水晶】を持ち出した。

ちゃちゃっと確認。

「へえ、この国の生まれなんだ。

お帰り、祖国へ」

 聞いた瞬間、エリカが鼻をグスグス。

僕は訳もなく目が熱くなった。

「ただいま、帰りました」

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