(生贄)4
鑑定魔法を起動した。
前方の森へ広げて行く。
本来は探知魔法で行うのだが、それは持っていない。
そこで鑑定を代用した。
これが使い勝手がいい。
名称とその詳細が分かる。
『ブルゼルの森』
アラリオン大樹海へ通じている森。
森に大型の魔物は少ない。
中型や小型の魔物が多い。
それらが一向にこちらに近づいて来ない。
これは・・・。
そこで気付いた。
外壁に異な感触。
息づく魔力の波動、魔波。
鑑定を足下の外壁に向けた。
各所に魔法の術式が施されていた。
魔物を寄り付かせぬ【魔物忌避】。
背後を振り返った。
駐屯地を鑑定した。
『魔法騎士団第二駐屯地』
一個大隊500名が駐屯している。
一番大きくて高い建物を睨むように見た。
このまま脱出するのも有りだが、憎しみを残したままでは去れない。
生贄達の分までとは言わない。
ジュリアが刺殺された御礼くらいはしないと、それが礼儀だろう。
それに素手では外に出られない。
森に棲む魔物の活動は夜でも一向に衰えない。
そこへ素手で向かうのは死を意味する。
何か武器を調達する必要がある。
ここは騎士団の施設であるからには武器庫はある筈だ。
招かれてないけどお邪魔しよう。
被害者としては当然の権利だろう。
賠償金、賠償金。
慰謝料、慰謝料。
集金、集金っと。
おっと、人が近づいて来る。
外壁上の通路をこちらに向かって、ゆっくり歩いて来る。
二名。
騎士と従士だ。
足取りからすると僕に気付いている様子はない。
ただの巡回なのだろう。
ここで騒ぎを起こす気はない。
退散、退散。
外壁から飛び下りた。
暗がりに身を寄せた。
鑑定魔法の範囲を広げた。
本当にこれは便利、けど、もっと便利にしよう。
地図機能がないので造る事にした。
「マップ」と意識して、かつ、願って念じた。
鑑定の項目が増えた。
疑問が芽生えた。
僕がこれだけ魔法を使っているのに、それに気付いた様子がない。
宿舎から飛び出して来る者がいない。
僕の鑑定魔法に気付く魔法使いがいないのだろうか・・・。
武器庫を見つけた。
騎士宿舎に隣接していた。
明かりがついているお隣のお陰で、武器庫は闇に沈んでいた。
当たり前だが、施錠もされていた。
さあ、大泥棒のお時間。
僕は重ね掛けで錬金魔法上級を起動し、鑑定で検分しながら、錠前に干渉した。
構造を仔細に見た。
錬金の下位職にあたる鍛冶の手になる汎用品だ。
単純な構造で何らの術式も施されていない。
これなら錬金魔法初級でも容易に手が出せる。
僕は上級だから、なおさらだ。
難無く開錠した。