(道中)5
それにしても外が騒がしい。
エリカは気付かないが、僕は宿舎の魔水晶に干渉し、
探知と察知に相乗りしているので詳細に分かった。
魔物が複数、徘徊していた。
【魔物忌避】が効果を発揮しているので宿舎への接近はないが、
魔物同士の争いには効果がない。
強者が弱者を食い物にしていた。
こちらに偶然に接触しなければ問題ないのだけど。
危機に際して宿舎に張られる魔力障壁ドームは、
宿舎の中心から半径8メートル、高さ5メートル。
自動修復機能があるから防御は完璧だと思う。
よほど凶暴凶悪な魔物でなければ。
目が覚めた。
爆睡してしまった。
隣ではエリカが大の字になっていた。
泣き疲れか、目元が腫れていた。
僕は嵌め殺しの窓を見た。
スチールスモークガラス窓なので、外から中は見えないが、
中から外は見える。
見えるが薄闇の中にいる様なものなので、朝か昼か、
正確には分からない。
僕はエリカを起こさぬ様に注意して布団から抜け出した。
玄関ドアを開けて外を見た。
木漏れ日だ。
「ジュリア」エリカが上半身を起こし、僕を見ていた。
「起きたのか、朝だよ」
エリカが跳ね起きて、駆けて来た。
僕にしがみつく。
ついでだ。
「魔法を使うよ」ライトクリーンプラスを二人にかけた。
エリアの目元の腫れが消えた。
布団をしまってモーニングにした。
木皿と竹コップ、それぞれ二セットを取り出した。
木皿には干し肉と、青空市場で買い求めたバナナ。
竹コップには、同じく青空市場で買い求めたスープ。
エリカの味評価は厳しい。
「しょっぱい干し肉ね」
汗をかくから問題ない。
「大き過ぎない、このバナナ」
噛めば問題ない。
「味の濃いスープね」
大人の味と言ってほしい。
僕は亜空間収納から従士用の物を取り出した。
パンツ三枚、肌着三枚、ズボン三本、シャツ三枚、靴下三組、
剣帯三本、革靴三組、フード付きローブ三枚。
それを見てエリカが不審な顔をした。
「これは」
「エリカの着替えだよ」
「えっ、男の子の物でしょう」パンツを指差した。
忘れていた。
武器庫から盗んだ物は男物ばかり。
しまったなあ。
青空市場に寄った際に女の子用を買っておけばよかった。
ほんとう、後悔先に立たず。
「だよねえ」返す言葉がない。
「もしかしてジュリア」
「見るかい」
僕はズホンとシャツを脱いで下着姿を見せた。
エリカが目を丸くした。
「えー」引かれてしまった。
僕は考えた。
いくら何でも盗んだとは言えない。
そこで男物だけに、珍説を披露した。
「誰も頼れないから、僕は男になる事にしたんだ。
このパンツや肌着から始めたんだよ」苦しい言い訳。
「んー、分かった。
エリカも男の子になる」
錬金術を起動した。
まずはパンツ、肌着、ズボン、シャツ、靴下、剣帯。
手持ちの術式があるから、それをコピーするだけ。
【自動サイズ調整】
【自動魔力供給】
【ブラックボックス、コーティング】
【魔力認識、作成者登録、所有者登録、盗難対策】
慣れた手順なのでパパッと終えた。
「エリカ、魔力認証を済ませてから着替えて」
「はい」
いい返事。
直ぐに全裸になった。
僕を女の子と信じて疑わない。
当然だな。
僕の身体は女の子なんだから。
視線を逸らして革靴、ローブ付きフードに取り掛かった。
【防寒、防暑、防水、防塵、防汚、防刃、防火】
【自動修復】
【自動サイズ調整】
【自動魔力供給】
【ブラックボックス、コーティング】
【魔力認識、作成者登録、所有者登録、盗難対策】