(道中)3
こんな小さな町にもスラムがあった。
今にも崩れ落ちそうな建物が立ち並び、
今にも倒れそうな住人が住んでいた。
誰一人、僕達に関心を示さない。
通り過ぎるのが目に映るはずなのに、視線が動かない。
ただ、ジッとしていた。
何を待っているのだろう。
幸せ、死あわせ・・・。
僕は外壁の前で身体強化した。
エリカを抱きかかえるので中級。
それでもってお姫様抱っこ。
軽い。
「えっ、どうするの」間近で驚くエリカ。
「声を上げちゃ駄目。
目を閉じているんだよ」
お客様がいるから慎重に風魔法を重ね掛け。
それでもって跳んだ。
まず外壁の上。
外の足場を確認してから跳び下りた。
雑草を踏み潰した。
エリカはしっかり目を開けていた。
「凄いよ、凄いよジュリア」僕の首に抱きつく。
そんなエリカを抱えながら先の森へ急いだ。
たぶん、町の人間にも、街道の人間にも見られていない筈だ。
でも急いだ。
森は手入れされていて、視界の妨げになる雑草や藪はない。
木の切り株跡の多さや、樹皮を剥いだ丸太の山から察するに、
ここは町の入会地なのだろう。
エリカを下ろしてバッグ経由で亜空間収納から魔法杖を取り出した。
半眼の意匠にエリカが喰いついた。
「かわいい杖ね」
「魔法使いの杖だよ。
これでエリカを守るから安心していいよ」
エリカが僕を下から覗き込む。
「ねえジュリア、どうしちゃったの。
村にいた頃とは別人だよ」
「それはね、乙女の秘密、分かるだろう」
自分で乙女の秘密と言ったが、気持ち悪い。
悪寒、おかん、おぞましさに総毛だった。
しかしエリカは納得した。
「そうか、乙女の秘密か」
入会地を過ぎた。
丈の高い雑草や藪が目につく様になった。
僕は極力、獣道を選んで歩いた。
しばらく行くと魔法杖が反応した。
赤フラッシュ、バイブ、魔力障壁ドームが張られた。
隣を歩いていたエリカが僕にしがみついた。
「キャー」
「魔物を見つけた。
でも大丈夫。
結界を張ったから魔物は入れない」
「ほんとうに大丈夫なの」
エリカを抱き寄せた。
「信じていいよ」
僕は魔法杖に干渉して探知に相乗りした。
猪の種から枝分かれした魔物だ。
バイア。
三匹がこちらに駆けて来る。
ザザッザッ、丈の高い雑草が風もないのに揺れた。
僕達を獲物と認識している様な速度。
会敵した。
三匹が雑草を潜り抜けて突進して来た。
ドドンドン、派手な衝突音。
しかしそれくらいではドームは壊れない。
罅が入ったとしても、即、自動修復機能が働く。
弾き返されたバイアは諦めない。
再度挑む、ドドンドン。
僕はエリカを振り向いた。
「何の問題もない。
頑丈な結界だろう」
「ほんとね」
僕は魔法杖に干渉して魔力障壁ドームを弄った。
ドームの上部に直系50センチの穴を開けた。
攻撃魔法の射出口だ。
風魔法を起動した。
貫通力特化の風玉・ウィンドボールを三発、待機。
三匹の額をロックオン、ホーミング。
Go。