(旅立ちに向けて)10
奴等を生真面目に相手をする気はない。
黙って次の言葉を待った。
真ん中の奴が威嚇してきた。
「マジックバッグを渡せ。
こっちに渡せば命ばかりは助けてやる」
命ばかりは助けてやるって、信じるか、馬鹿っ。
僕はバッグ経由で亜空間収納から『魔法杖』を取り出した。
さあ、試運転だ、魔力を通して起動させた。
片手で杖をドンッと立て、三人を見回した。
奴等の顔色が変わった。
ニタニタ、ニタニタ、今にも涎を垂らさんばかり。
既に自分達の物だと算盤を弾いているのだろう。
弾かれるとも知らないで。
一人が嬉々として号令。
「よ~し、取り押さえるぞ」
一斉に駆けて来た。
マジックバッグと信じている物を傷つけたくなくて、
腕ずくで僕を取り押さえるつもりのようだ。
僕は魔法杖に干渉して探知に相乗りした。
鑑定よりは劣るが、ステータスくらいなら楽勝で読める。
あっ、HPは僕より高いがMPは低い。
スキルは生活魔法がチョボチョボ生えてるだけ。
ただの威勢のいい輩だった。
魔法杖。
杖の頭部に洞があり、中には魔水晶。
上半分が隠れているので、半眼感が半端ない。
その魔水晶が赤いフラッシュを放った。
同時にバイブ。
三人が最接近したところで魔力障壁ドームが張られた。
ドンドンドンと弾き返した。
引っ繰り返って呆然とする三人。
理由が思い付かないらしい。
それはそうだろう。
錬金魔法上級の施した術式は下の者には理解できない。
肉眼では透明の障壁は捉えられない。
それでも三人は経験が豊富らしい。
一人が真っ先に怒鳴った。
「風魔法のシールドだ、切り裂け」
一斉に抜剣した。
大振りで見えぬ障壁に打ちかかった。
バンバンバン、音だけは威勢がいい。
僕は安心して眺めた。
自動修復機能があるからだ。
もっともそれ以前に、三人の腕では全く通じない。
罅一つ入れられない。
と、新手が現れた。
帯剣の四人が駆け込んで来た。
これはっ。
余裕があったので警戒していなかった。
警戒心欠乏症かっ。
再び魔法杖に干渉して探知に相乗りした。
驚いた。
都庁の警邏局の人員だ。
管轄外なのに何故。
目的は僕じゃないよね。
三人の方だよね。
何にしても巻き込まれたくない。
四人のステータスがやばい。
ランクもHPも高い。
MPもそれなりにある。
何よりもスキル。
四人揃って戦士系中級で身体強化が生えていた。
一人は察知魔法も使えた。
警邏局の者であれば攻撃魔法への備えもあるだろう。
さらに手練れとなれば武器に魔力を纏わせ、魔法そのものを弾く、
あるいは切り裂く、それらができる筈だ。
これは拙い、拙い。
関わりたくない。
事前通告も一切の説明もなく、問答無用とばかりに、
四人が抜剣して斬り込んで来た。
不埒な輩は状況を理解する前に手傷を負わされ、捕縛された。
警邏局の四人にとっては数的には四対四。
その四人目が僕の方へ来た。
長剣片手に僕を睨み据えた。
獲物を見つけたハンター。
犯罪者認定されてしまった。
僕は抵抗しない。
かと言って捕まる気もない。
逃げる。
魔力障壁ドームを解除。
代わりに身体強化し、風魔法を重ね掛け。
それでもって後方へ大きく飛び退った。