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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
21/291

(生贄)21

 話が一段落ついたところでジャレットはディップ総団長も見た。

「よろしいか」

「はい、捜査には全面的に協力いたします。

盗難に遭った物のリストも提出させていただきます」

「ありがとうございます。

えーと、それではなく、別件で疑問があるのです。

お尋ねしてもよろしいですか」

 ディップが不思議そうな表情で見返した。

「なんなりと・・・」

「都民の噂です。

魔法騎士団が奴隷を買い集めていると言うのです」

 ディップの表情が固まった。

口を開かない。

仕方がないのでジャレットが続けた。

「落雷の前から流れていた噂です」

「私も聞いたな」別の席から声がした。

「私も・・・」これまた別の席から。

 ディップはまだ固まっていた。

解けそうにない様子。


 代わって国王が応じた。

「私が説明しよう。

そもそもの原因は東のクレーゼ帝国にある。

彼の国との休戦条約が来年夏に切れるのだが、

我が国と彼の国では国力が違う。

彼の国は大国だ。

休戦期間で国力がほぼ回復するだろう。

比べて我が国は小国、今もって半分も回復していない」

 国王は言葉を切ると、皆をジッと見回し、続けた。

「彼の国は直ぐにではないにしろ、必ず再侵攻して来る。

そうなれば我が国は受け身にならざるをえん。

一手でも間違えれは滅びるかも知れん。

そこで私は起死回生の手を打つことにした。

異世界人の召喚だ」

 国王は再び皆を見回し、コーヒーに手を伸ばした。

一口飲み、続けた。

「我が国では始めてだが、かつての大国『ブルゼン』では数度、

召喚を成功させたと宝典に残されている。

その宝典によると異世界人は有用なスキルを持って現れるそうだ。

私はそれに目をつけた。

異世界人の召喚。

・・・。

禁じ手かも知れんが、背に腹は代えられん。

異世界人召喚。

ディップ総団長には私が命じた」


 話の先が見えたのか、誰もが口を閉じた。 

ジャレットは空気は読まない。

出席者を見回して一人一人の顔色を読む。

それで王太子は事前に知っていたと確認した。

冷静な口調で誰にともなく言う。

「異世界人召喚はお伽話かと思っていました」

 ディップ総団長が応じた。

「魔法使いの世界では常識です。

ブルゼンの宝典だけでなく、

古代魔法典籍にもそれが記されています。

勇者、聖女、賢者、彼等をも召喚したそうです」

「お伽話の魔王討伐ですか。

それが奴隷売買と何の関係が・・・」

「我が国には召喚魔法超級のスキル所持者がおりません。

いるのは上級二名、中級五名、初級八名。

彼等を纏めての数押しでも超級一人には及びません。

そこでその差を埋めるのが生贄の奴隷です」

 ジャレットは溜息を漏らした。

「そういう事でしたか」

 ディップ総団長は肩を竦めた。

「ええ、そういう事でした」

「で、結果は・・・」

「幸い魔法騎士団に召喚上級一名がおりました。

これに魔法ギルド仲介の中級四名を加え、支援体制を整えて、

第二駐屯地で召喚を実施しました。

結果は失敗でしたが・・・。

申し訳ない」

 ディップ総団長は申し訳ないとは言うが、他人事の様な表情。


 ジャレットは彼の責任は追及する立場ではない。

ただ、何があったのかを当事者の口から聞きたいだけ。

「奴隷は・・・」

「一人残らず生贄として捧げました」

「数は・・・」

「百名」

「百名も・・・、購入価格は聞かないで置きます。

それで、その遺体はどうしました」

「瓦礫から被災者を救出するだけで手一杯で、

百名の遺体にまで手が回りません。

かと言って、手遅れになると疫病の発生源になります。

そこで火魔法使い達にその場での焼却を指示しました」

「焼いたんだ」

「ええ、焼きました」


     ☆

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