(生贄)21
話が一段落ついたところでジャレットはディップ総団長も見た。
「よろしいか」
「はい、捜査には全面的に協力いたします。
盗難に遭った物のリストも提出させていただきます」
「ありがとうございます。
えーと、それではなく、別件で疑問があるのです。
お尋ねしてもよろしいですか」
ディップが不思議そうな表情で見返した。
「なんなりと・・・」
「都民の噂です。
魔法騎士団が奴隷を買い集めていると言うのです」
ディップの表情が固まった。
口を開かない。
仕方がないのでジャレットが続けた。
「落雷の前から流れていた噂です」
「私も聞いたな」別の席から声がした。
「私も・・・」これまた別の席から。
ディップはまだ固まっていた。
解けそうにない様子。
代わって国王が応じた。
「私が説明しよう。
そもそもの原因は東のクレーゼ帝国にある。
彼の国との休戦条約が来年夏に切れるのだが、
我が国と彼の国では国力が違う。
彼の国は大国だ。
休戦期間で国力がほぼ回復するだろう。
比べて我が国は小国、今もって半分も回復していない」
国王は言葉を切ると、皆をジッと見回し、続けた。
「彼の国は直ぐにではないにしろ、必ず再侵攻して来る。
そうなれば我が国は受け身にならざるをえん。
一手でも間違えれは滅びるかも知れん。
そこで私は起死回生の手を打つことにした。
異世界人の召喚だ」
国王は再び皆を見回し、コーヒーに手を伸ばした。
一口飲み、続けた。
「我が国では始めてだが、かつての大国『ブルゼン』では数度、
召喚を成功させたと宝典に残されている。
その宝典によると異世界人は有用なスキルを持って現れるそうだ。
私はそれに目をつけた。
異世界人の召喚。
・・・。
禁じ手かも知れんが、背に腹は代えられん。
異世界人召喚。
ディップ総団長には私が命じた」
話の先が見えたのか、誰もが口を閉じた。
ジャレットは空気は読まない。
出席者を見回して一人一人の顔色を読む。
それで王太子は事前に知っていたと確認した。
冷静な口調で誰にともなく言う。
「異世界人召喚はお伽話かと思っていました」
ディップ総団長が応じた。
「魔法使いの世界では常識です。
ブルゼンの宝典だけでなく、
古代魔法典籍にもそれが記されています。
勇者、聖女、賢者、彼等をも召喚したそうです」
「お伽話の魔王討伐ですか。
それが奴隷売買と何の関係が・・・」
「我が国には召喚魔法超級のスキル所持者がおりません。
いるのは上級二名、中級五名、初級八名。
彼等を纏めての数押しでも超級一人には及びません。
そこでその差を埋めるのが生贄の奴隷です」
ジャレットは溜息を漏らした。
「そういう事でしたか」
ディップ総団長は肩を竦めた。
「ええ、そういう事でした」
「で、結果は・・・」
「幸い魔法騎士団に召喚上級一名がおりました。
これに魔法ギルド仲介の中級四名を加え、支援体制を整えて、
第二駐屯地で召喚を実施しました。
結果は失敗でしたが・・・。
申し訳ない」
ディップ総団長は申し訳ないとは言うが、他人事の様な表情。
ジャレットは彼の責任は追及する立場ではない。
ただ、何があったのかを当事者の口から聞きたいだけ。
「奴隷は・・・」
「一人残らず生贄として捧げました」
「数は・・・」
「百名」
「百名も・・・、購入価格は聞かないで置きます。
それで、その遺体はどうしました」
「瓦礫から被災者を救出するだけで手一杯で、
百名の遺体にまで手が回りません。
かと言って、手遅れになると疫病の発生源になります。
そこで火魔法使い達にその場での焼却を指示しました」
「焼いたんだ」
「ええ、焼きました」
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