(生贄)15
『バシュテル街道』
パラディン王国へ通じている街道。
『ノリス橋』
剛性強化の術式が施されている。
『初心者の森』
小型の魔物が多い森。
F級クラス冒険者向けの『初心者の森』。
定期的にギルドで魔物を間引いているそうだ。
僕はゴーリン川に沿って北に向かった。
ギルドの売店で買った地図によると、
この先が薬草の自生地の一つ。
鑑定で調べた。
前方の水辺に数種類、薬草を確認した。
僕は身体強化してないので疲れた。
足が重い、まるで一本の棒。
ボーッとしながら左右を見回した。
手頃な場所を見つけた。
凹凸の凸地に腰を下ろして一休み、一休み。
すると背後から子供達の声が聞こえて来た。
見習いのみで構成されたパーティ。
五人がドッと水辺に押し寄せ、左右に広がって行く。
「俺が周囲の警戒をする。
皆は川の中のスライムに注意しろよ」
「はーい」
「あっ、薬草みっけ」
「わあー、いっぱい」
「こっちも」
「全部とるな、少し残すんだぞ」
疲れが取れたので僕は移動した。
人がいない方へ、人がいない方へ。
気付いたら、『初心者の森』が目の前だった。
鑑定すると薬草の自生地だけでなく、魔物も見つけた。
兎の種から枝分かれした魔物・ラブラビが群れなしていた。
体長は成体で50センチほど。
武器は額の左右の鋭い角、四本の牙。
特筆すべきは俊足、機敏、跳躍力と三拍子揃っていること。
初撃は角、手傷を負わせたら即座に牙で噛み砕く。
僕は丈の高い雑草群に身を隠し、ラブラビの様子を窺った。
角は見るからに鋭そう、怖い。
でも兎耳が、鼻先が、可愛い。
気が緩んでいるのか、のんびりと薬草をハムハムしている。
とっ、ラブラビの様子が一変した。
一斉に耳をピーンと立てた。
鼻を上向きにしてフムフムと空気を嗅ぐ仕草。
しまった。
風向きが変わっていた。
こちらが風上。
ラブラビ一同の視線が僕の方へ向けられた。
雑食の彼等、僕を獲物と認識したのだろう。
短い会話を交わすや、散開してこちらに駆けて来る。
数は七体。
でも、僕にとっては好都合。
魔法の練習ができる。
即座に風魔法を起動した。
まずは防御から。
風盾・ウィンドシールドを選択した。
ラブラビの跳躍力を警戒し半径2メートル、高さ5メートルの円柱。
実に大人げない大きさにした。
念の為、身体強化、
鋼の短剣を抜き、亜空間から鋼の小さな盾を出した。
これで備えは万全。
大型のウィンドシールドを張ったので、僕の周囲の空気が揺らぐ。
けれど、ラブラビは何ら頓着しない。
包囲を完了するや、一斉に跳びかかって来た。
跳躍力が凄い。
小さな身体なのに3メートルほど先からジャンプした。
角を突き出して攻撃して来た。
それでも、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。
シールドの円柱を突破できない。
弾き返されて、ひっくり返った。
ラブラビは諦めない。
起き上がるや、攻撃を再開した。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。