(生贄)13
歩いていると美味しそうな匂いが漂ってきた。
クンクン・・・。
そちらへ足を向けた。
広場に出た。
元は王宮が建てられていた場所だ。
広々していて大掛かりな泥棒市の感がした。
老若男女が行き交い、多彩な屋台に客が群がっていた。
『ドロス広場』
移転した王宮の跡地。
現在は王国最大の青空市場。
僕は行列の長い『焼き鳥』の屋台に並んだ。
美味しい証だろう、たぶん。
僕はそこに並んだ。
待つこと十数分。
順番になった。
異世界初めての炭火焼を見た。
鳥の部位とぶつ切りした長ネギを串刺しした物。
たっぷりのタレが炭火に垂れ落ちてジュージュー。
三本を竹の皮で包んでもらった。
お代は600ベレル。
大銅貨一枚と中銅貨一枚を支払った。
青空市場の真ん中に巨大な噴水があり、
周りに休憩コーナーが設けられていた。
ベンチとテーブルがセットで、飲食できる様にもなっていた。
その一つに腰を下ろした。
テーブルで竹の皮を解いた。
焼き立てを一本、口に運んだ。
・・・熱い、前世と変わらぬ味、美味しい。
異世界でも同じ人間。
違いは魔力の有無のみ。
味覚・嗅覚は同じだ。
思わず涙した。
二本目を食べ終えたところで気付いた。
足下を黒い小さな物がチョロチョロしていた。
真っ黒な子猫だ。
警戒しながらも僕を見上げてくる。
鑑定した。
「名前、なし。
種別、猫。
年齢、1才。
現状、健康。
性別、雌。
HP、5/5。
MP、5/5。
スキル、なし」
普通の猫だった。
微量の魔力はあるが魔卵を生じないタイプなので獣に分類される。
僕ら人間と同タイプだ。
人間も魔力があるが魔物の様な魔卵は生じない。
ただ人間は魔力を魔法に昇華し、活用している。
その辺りが獣とはちょっと違う。
僕は傍目を誤魔化すには無理があるが、
ローブの裏のポケット経由で、
亜空間収納から木皿二つを取り出した。
幸い、僕に目をくれる者はいない。
一つ目の木皿に三本目の焼き鳥をバラシて入れ、足下に置いた。
すると、それに子猫が飛びついた。
よほどお腹が空いていたのだろう。
小さな口で大きな部位を噛みちぎり、一つを頬張った。
二つ目の木皿に水魔法で魔水を入れ、
一つ目の隣に並べた。
子猫は脇目も振らず咀嚼、咀嚼。
僕は黙ってベンチから腰を上げた。
本来であれば宿屋を探すべきだろう。
お金には困っていないから宿代無視で泊まれる。
でも、こんな子供が一人で宿泊すると色々な意味で詮索されそう。
それが煩わしい。
仕方がない。
スラムに戻ろう。
足を引き摺りながらスラムにたどり着いた、
そこで異様な光景を目にした。
入り口のゴミ捨て場に死体が積み上げられていた。
それも四人、何れもスッポンポン。
凄惨なリンチを受けた顔なので誰なのかは分からないが、
揃って右膝から下を欠損しているので、その正体が判明した。
今朝、僕に因縁をつけてきた四人だ。
風玉・ウィンドボールで右膝を攻撃したが、仕留めてはいない。
では誰が殺した。
誰が身ぐるみ剥がした。
誰がここに運んで捨てた。