(生贄)12
リュックサックを背負って散歩した。
肩や背中を慣らすつもりでいたのに、先に足にきた。
脹脛も太腿もパンパン。
なんて貧弱な足。
誰も見てないところで革靴は亜空間収納に取り込んだ。
これで少し背中が軽くなった。
お腹も空いていたので、ちょっと早いけど休憩がてら、
小奇麗な店に入った。
異世界で初めての外食、ランチ。
『お任せランチ』を食べていると、
客同士の会話が耳に飛び込んで来た。
「魔法騎士団の駐屯地に雷様が落っこったそうだ」
「だってな。
大層な被害だってな」
「建物のほとんどが被災したんだろう」
「無事な建物はないって話だな」
「下敷きになってる奴や、生き埋めになってる奴が大勢いるが、
瓦礫が邪魔してるんだろう」
「王都に残っていた騎士団の魔法使い達が出動して、
瓦礫を片付けてはいるそうだが、
とても二日や三日では終わらんそうだな」
「どうするんだ」
「魔法ギルドに瓦礫片付けの依頼を出すんじゃないのかな」
雷魔法がでてこない。
安心した。
お代は800ベレル。
大銅貨一枚と中銅貨三枚を支払って店を出た。
足も回復した。
店員に場所を聞いた冒険者ギルドに遠回りで向かった。
歩きながら実感した。
この身体、虚弱体質にも程がある。
『王都西町冒険者ギルド』
王都の東西北の三か所にある冒険者ギルドの一つ。
冒険者ギルドはガラガラだった。
まあ、当然だな。
この時間帯にいるのは寝坊したか、依頼を手早く済ませたか。
僕は受付カウンターの一つに向かった。
優しそうなお姉さんがいる窓口。
「ご用でしょうか」声も優しそう。
「登録したいのですが」
「はい、見たところ未成年ですよね。
でしたら、見習いからのスタートになります。
よろしいですか」
「あっ、はい、お願いします」
お姉さんが懇切丁寧に説明してくれた。
「冒険者の階級は最上位のSから、A、B、C、D、E、最下位がF。
そしてアナタは、級外の見習いになるわね。
ギルドとしては、見習いには街中での安全な仕事を斡旋してるわ。
どうしてもと言うのなら、郊外での薬草の採取がお勧めね。
もっと稼ぎたいと言うのなら、荷物持ちね。
どこかのパーティに雇ってもらって討伐に参加するの。
でも、お勧めはしないわ。
討伐に失敗して逃げ遅れたら・・・、ねっ」肩を竦めた。
「はい。
僕は薬草採取をします」
「僕・・・、ねえアナタは女の子なんでしょう」
「はい、女の子です。
でも、小さな頃から僕なので、僕でお願いします」そこは譲れない。
お姉さんは呆れ顔。
渋々と言った感じで説明を再開してくれた。
「わかったわ、好きにしなさい。
それでは手短にギルドの説明をしましょう。
入会の手続きはその後ね」
全てを終えたら僕の荷物が増えていた。
一つは冒険者ギルドカード。
魔合金で作られたカードだ。
これは各種ギルドに所属するギルド員共通のカードになっている。
「名前、ジュリア。
種別、人族。
年齢、12才。
性別、雌。
出身地、パラディン王国。
住所、ベランルージュ王国、王都。
職業、冒険者見習い。
スキル、身体強化、生活魔法」
左手には採取した薬草を入れる竹籠を下げていた。
ギルドの売店で買ったものだ。
一緒に大陸の地図や薬草図鑑、魔物図鑑、薬草自生地の地図、
これらも買い、背中のリュックサックに入れておいた。
硬貨はちょっぴり減ったが、背中がずんと重い。