(生贄)11
最初の奴が苛立った顔で僕を睨んだ。
「何とか言えや、こらっ」一歩踏み出した。
怖い、怖い、そして面倒臭い。
風魔法初級を起動した。
貫通力特化の風玉・ウィンドボール四発、待機。
四人の右膝をロックオン、ホーミング。
面と向かい合う人間でも躊躇いはない。
即座に放った、Go。
たちどころに上がる四人の悲鳴。
右膝が粉砕され、下腿部が千切れ飛んだ。
血を流し、泣き叫んで転がる四人。
終えてから気付いた。
こういう場合でも治癒魔法は効果があるのだろうか。
鋭利な刃物で切断した部位は、直後であれば治癒で接着できる。
でも今回の様な場合は・・・。
粉々になった膝を再生し、下腿部を接着しなければならない。
治癒魔法の初級・中級・上級にそのような技法は存在していない。
となると超級なんだけど、僕はまだ会得していないので、
技法の有無自体すら知らない。
それ以前に超級は少ない。
レアな存在。
手近にいるとは思えない。
僕は連中に恨みはない。
罪を憎んで人を憎まず、だよね。
仕留めない。
どうか彼等が長生きします様に。
苦しむ様を横目に、先を急いだ。
今一番必要なのはリュックサックだ。
亜空間収納は優れた物だが、表立って人目に晒すものではない。
羨望や嫉妬の視線を向けられ、
要らぬ争いを生む火種にしかならない
それを避ける意味でリュックサックで偽装しようと思った。
おっと、もう一つ。
自分のステータスも偽装しよう。
鑑定魔法超級持ちが相手だと看破されるが、
そんなに多くはないはず。
遭遇するとも思えない。
でも念の為・・・。
「名前、ジュリア。
種別、人族。
年齢、12才。
現状、健康。
性別、雌。
出身地、パラディン王国。
住所、ベランルージュ王国、王都。
職業、なし。
ランク、D。
HP、50/50。
MP、99/99。
スキル、身体強化、生活魔法(火、水、土、風)」
表通りに道具屋があった。
店先に手頃なバッグが吊下げられていた。
それを見て僕は足を止めた。
店員から声がかけられた。
「いらっしゃい、従者姿のお嬢さん」
忘れていた。
騎士団所属の従士のローブを身に着けていた。
失敗、失敗。
「これ、お兄さんのお下がりなんだよ」
「そうなんですか」
「そうだよ。
近いうちに皆で旅に出るからリュックサックが欲しいんだ。
見せてもらうよ」
「はい、それならこちらです」
店の一角にリュックサックが並べられていた。
種類は二種類、布製品、革製品。
雨対策で革製品だろう。
何の革かは知らないが、色はカーキ色。
値札はついていない。
それを店員に見せた。
「これ幾ら」
「1万ベレルです」
僕は相場も値切り方も知らない素人。
即了承した。
ついでに別の売り場にあったフード付きローブも三着買った。
深緑、若緑、灰緑、目立たぬ三色の革製品を選んだ。
さらには革長靴も三足、茶色に統一した。
リュックサックと合計で3万ベレル。
ローブの内側のポケット経由で、
亜空間収納から大銀貨三枚を取り出して支払った。