(紛争)3
僕はロバートとの打ち合わせを終え、
ビラビットに新たな指示を下し、執務室を後にした。
すると外に出待ちがいた。
冒険者ギルドの職員のタルゼだ。
只今はここに出向中。
僕が自称代官なので、実質的には代官代行なのだが、
他聞を憚り、調整官と呼ばれていた。
議会と僕の間にある差異を調整する・・・、らしい。
僕は尋ねた。
「どうした」
「奥の倉庫に用事があります」
執務室の奥の部屋だ。
鍵が掛けられた倉庫部屋だ。
代官所を支配下に置いた当日、僕は鍵を持っていなかったので、
錬金魔法で鍵自体を壊した。
すると中には代官所の生命線が収められていた。
右の棚には領地の過去書類。
左の棚には現金や貴金属類。
領地を恙なく治めるには過去書類。
非常時には現金や貴金属。
当日、一切合切を収納したが、自称代官になったので、
過去書類は右の棚に戻した。
ただ、左の棚は空いたまま。
現金や貴金属を戻すつもりはない。
戻せば議会が好き勝手する。
或いは紛糾し、会議が踊る場と化してしまう。
だから僕が財布を握り、予算付けする事にした。
僕はタルゼと入れ替わり、廊下に出た。
代官所の各フロアが活気に満ちていた。
各ギルドから出向して来た者達だ。
彼等彼女等がタルゼの下で市を動かしていた。
前任者が搾取者であったのに比べ、新スタッフは市民への奉仕者、
たぶん。
代官所の敷地は広い。
無駄に広い。
奥行きがあるとも言う。
手前に庭園があり、別館が並んでいた。
更に奥に倉庫に厩舎。
そして農地兼任の庭と馬場。
別館には大勢が住んでいたが、今は半数近くに減っていた。
ここに救出した成人女子二十四名、女児十五名、男児九名、
計四十八名を保護していたのだが、冒険者ギルドの助けを借りて、
それぞれを生まれた村や縁戚のいる村に送り届けた。
今、ここに残っているのは代官所住み込みの奴隷だった者達。
厩務員一家五名、メイド六名、庭師一家四名、計十五名。
これに僕の連れ。
実弟一名、その仲間男児二名、獣人四名、計七名。
奴隷商から奪った借金奴隷十四名、奴隷に落した奴隷商一名、計十五名。
僕を含めると三十八名がここに寝泊りしていた。
否、正確には三十七名だ。
奴隷商・トランドが通いだ。
市内に家を所有しているので、夕方には帰宅して家族と過ごし、
朝には出勤して来る。
子供達の騒ぐ声が聞こえて来た。
奥の庭からだ。
そちらに足を向けた。
三十名近い子供達が庭の一角を開墾していた。
大半は近くの教会の孤児院の子供達だ。
それに、うちの子供達が混じっていた。
ワイワイキャッキャと仲良しこよし。
年齢に差はあるが、それは関係ないらしい。
誰もが笑顔で働いていた。
「ここにキャベツなの」
「ジャガイモだろう」
「タロイモだよ」
「ジロイモ」
まだ植えないが、子供達は予想するだけで喧々囂々。
楽しいのなら結構。
僕はエリカを探した。
いたいた。
同年齢と思える女児と親しく会話していた。
弾んでいる様で安心した。
これを切っ掛けに僕への依存度が低下すれば、尚更に結構。
僕に気付いたエウメルが近付いて来た。
エリカのお婆さんだ。
エウメルもエリカを心配していたらしい。
「これで良かったのよね」
「ええ、そう思います。
普通の子供に戻れたみたい、良かったですね」
偽らざる本音だ。
ただ、心配もある。
「ところで勉強は捗っていますか」
「シスターが頑張っているんだけど、今一つね」
「エリカがですか」
「エリカもだけど、ナギラもよ。
絵ばかり描いてるから、よく怒られてるわ」
子供達の歓声が聞こえた。
そちらに視線を転じると、子供達がイナゴの群れの様に、
こちらに飛んで来るではないか。
「ジュリアだ」
「ジュリア」
「ジュリア」
大人達は僕の魔力を恐れながらも資金力を頼り、擦り寄って来る。
ところが子供達は純粋。
ただ単に遊ぼうと身体をぶつけて来る。




