(紛争)2
僕はブラビットをアムスバム市に差し向けた。
あそこにヘイセル伯爵軍の殆どが駐留しているので、
その動向が今回の鍵を握る、そう判断してのこと。
読み通り、伯爵の筆頭執事が市に現れた。
彼が伯爵本人に成り代わって指揮を執るのだろう。
伯爵本人が来ないのは残念だが、それも致し方なし。
筆頭執事で我慢しよう。
伯爵がメインデッシュなら、執事はパテだ。
羊のパテ・・・。
「執事が率いて来た手勢の数は」
「護衛の冒険者パーティのみです。
B級クラスの『シュライダー旅団』五名にテイムされた魔物が一頭。
ヘルハウンドです。
後続の兵が来る様子は微塵もありません」
僕は居合わせたギルドマスターのロバートに尋ねた。
「アムスバム市の全兵力をこちらに向ける事はない。
となると、傭兵団か。
千を超える傭兵団に心当たりは」
ロバートは即答した。
「後方支援を考慮すると千五百にはなる。
武具や馬車の製造修理から事務会計、調理、馬の世話等だ。
そこまでの大きな傭兵団はない。
まず食わせるのが大変だ。
次に規律を保つのが難しい。
三つ目、それだけの数になると、反乱分子と疑われ、
官憲に目を付けられる」
僕はロバートを観察した。
口が滑らかだ。
続けて尋ねた。
「傭兵ギルドに伝手はあるのか」
「ギルマスを知っているが、そいつは癖のある奴でな」
「現金を積み上げれば良いんだよね。
それじゃあ、依頼する。
筆頭執事がこちらに向ける兵力を調べて欲しい」
「依頼書を」
「今、書き上げる」
ロバートの表情が緩む。
ついでとばかり僕に質問した。
「議会からの案件は」
「それは保留だ。
こう工事ばかりだと業者も人手不足だろう」
ロバートはあからさまに嫌な顔をした。
「そこはそれ、何とか回す」
「議会に告げて欲しい。
僕を舐めるな、ふざけた事ばかり言うと工事現場の人柱にするぞ、
とね、これは本気だ。
・・・。
工事案件は保留、人事関連の二つは承認。
それで良いね」
ロバートが肩を竦めた。
「このところ、口が悪くなった気がするな」
「そうかな。
・・・。
もしかすると、質の悪い議会の教育の賜物かな」
こう議会相手に出費ばかりじゃ気が滅入る。
そこで閃いた。
収入を得よう。
「ロバート、僕は貴族街を差し押さえようと思う。
これはどうかな」
ロバートは首を傾げた。
「んっ、意味が分らん」
「貴族達全員が街から逃げた。
使用人達も連れてだ。
だから今、貴族街は僕達を除いて誰もいない。
無人になった屋敷を差し押さえても問題はないだろう」
「確かに、それで」
「更地にして土地を売ろうと思う」
ロバートは天を仰いだ。
「なんて・・・、あくどい」
「誉め言葉だね」
「ふっ、好きにしてくれ」
「それで商人ギルドへの依頼を頼む」
「まあ、良いだろう。
商人ギルドの所轄案件だからな」
「それでだ、更地にする前に、
全ての屋敷の中にある物を売りに出したい。
机椅子からベッド、箪笥、絨毯、キッチン用品から針鋏の類まで、
ありとあらゆる物、全てを売りに出したい。
その売上げは全額、商人ギルドの僕の口座に入れる」
ロバートが口を半開きにして僕を見た。
それは居合わせたブラビットも同じだった。
ロバートが首を左右に振りながら、口を開いた。
「実にあくどいな。
強盗も顔負けだ。
それで売上全額を自分の懐に入れると」
「後々の為、建前として、僕の口座に入れた方が良いだろう」
僕が負けた場合、負ける気はしないけど、万一に備えて、
各ギルドや議会が伯爵に追及される事は目に見えている。
それを避ける意味で僕の口座とした。
この親心、分ってくれるかな・・・。
暫し、ロバートは考えた。
そして、あくどい顔で頷いた。




