(紛争)1
ジャンポールは耳を塞ぎたくなった。
それでもこれは役儀、続けて尋ねた。
「奴には仲間がいますよね」
騎士団長が手元の書類を捲った。
「奴の実弟一人と、弟の仲間が二人、獣人の大人が三人、
獣人の子供が一人、合わせて七人です。
これに仲間になるのかどうかは分かりませんが、
借金奴隷が十四人、【奴隷の首輪】を付けられた奴隷商が一人、
合わせて十五人が付いています
更には代官所の奴隷十五人も、術式の書き換えに遭い、
その所有権を奪われました。
ですので奴隷は都合、三十人です」
騎士団長は述べただけで視線は合わせない。
短い時間だが、お疲れの様だ。
ジャンポールは容赦なく尋ねた。
「大事な事を忘れていました。
奴は色々とお金を使っている様ですが、その出処は」
「たぶん、代官所の金庫ではないかと思われます」
「やはりそうですか。
拉致された女子供に費やし、門番の経費、議会と関連費用、
他に思い当たるのは」
「あり過ぎます。
冒険者ギルドを窓口にして、区画整理等の工事を発注し、
業者に大盤振る舞いしています」
ジャンポールは頭が痛くなった。
議会に続いて区画整理と。
市街地のどこを区画整理するというのか。
それは如何なる根拠に基づくものなのか。
もしかすると、公共事業として市中にお金をばら撒くつもりなのか。
奴の魂胆が分からない。
あっ、ああ、そうか。
市中にお金を回して、景気対策か。
それでもって民心を掌握。
本当に誰の入れ知恵だ。
今回の件で出動できる兵力には限りがある。
この地を奪還しようとするオールマン伯爵家の目があり、
全兵力は投入できない。
良くて半数か。
「寄子の貴族達はどこに避難したのですか。
誰一人、新都には戻って来ないのですが」
ここを治めるシャルルが応じた。
「面目なくて新都に顔出し出来ないのでしょう。
全部の家が無事に、無事にと言って良いのかは分かりませんが、
縁戚のいる街に避難しています。
この街にも二つの子爵家と一つの男爵家が来ています」
ジャンポールは指示した。
「寄子の貴族を全てここに集めて下さい。
家族は勿論、使用人の端々までもです。
彼等にはしっかり働いて貰いましょう」
どんな小さな寄子貴族でも、身辺警護の兵は抱えている。
それらを糾合すれば、戦力の足しにはなるだろう。
☆
僕は代官所の執務室で、議会から上げられた書類に目を通した。
多数決で通された案件が五つ。
うち工事関連が三つ、人事関連が二つ。
その書類を持参した当人はソファーでコーヒーを飲んでいた。
こちらには目もくれない。
僕は目を通し終えたので書類を脇に除けた。
ジュースに手を伸ばした。
冷えていない。
仕方ないので氷魔法でちょっと冷やした。
この冷たさが良い。
ゆっくり口にした。
魔法の起動に気付いたのか、ソファーから声がかけられた。
「相変わらず魔法の無駄遣い、羨ましいな」
冒険者ギルドのマスター、ロバートだ。
議会の議長でもある。
その議会もロバートの言葉が切っ掛けであった。
代官を殺した僕がこの街で伯爵を待ち受けようとしたら、
彼が言った。
「代官業務は誰がするんだ。
領政が回らなくなると皆が困るんだが」
僕は返事に困った。
すると言われた。
「代案がなくて殺すんじゃない」
言い掛かりだ。
でも反論できない。
弱みに付け込むように提案された。
「殺した責任で、お前が代行するべきだろうな」
「経験がない」
「それもそうだな・・・、あれだ、議会だ。
遠くの国では貴族が議会を催して、意見を集約しているそうだ」
議会か。
それは知っている。
前世の幼稚園で習った。
三桁の掛け算同様に、三権分立も習った。
色々と前世の知識が役に立つ、そう思った。
この頃は、ロバートの狙いが、僕の懐ではないか、そうも思う。
何しろ、代官所の金庫の中身は全部、僕が押収した。
それを吐き出させようとしている、そうに違いない。
でなければ、こんなに工事が連続する事はない。
奴隷のブラビットがノックして入って来た。
ロバートに気付いてから僕に視線を転じた。
「宜しいですか」
「ギルドマスターだから知っている筈だ。
当然、僕達には内緒にしているだろうけどね」
彼は冒険者ギルドのマスターでもあるので情報の安売りはしない。
そんな商売熱心な姿勢には感心するばかり。
果たして彼は敵なのか、味方なのか。
疑心暗鬼になれば心を損ずる。
ここは前向きに考えよう。
「はい、それでは申し上げます。
伯爵の筆頭執事がアムスバム市に入りました」
耳にしたロバートが驚いた顔をした。
全くもって白々しい。




