(故郷)43
女伯爵からの命令だ。
ジャンポールは断れない。
笑顔一つで受諾した。
しかし直ぐには発てない。
色々と準備がある。
まず領地各所に指示書を携えた使番を走らせた。
筆頭執事としての命令に近い指示である。
異議を唱える者はいないはずだ。
次いで冒険者ギルドに依頼を出した。
期間未定の警護の依頼である。
冒険者パーティのクラスはA級ないしはB級とした。
三日後、ジャンポールは新都を発った。
伯爵家の箱馬車に乗って東に向かった。
馭者は二名、共に領兵である。
車内にはジャンポールの他に五名。
雇った冒険者パーティを同乗させていた。
「シュライダー旅団」なるB級クラスの冒険者パーティ。
リーダーは剣士兼探知魔法使い、他に盾士、槍士、
弓士兼風魔法使いの女エルフ、テイマー兼治癒魔法使いの女。
箱馬車脇を伴走しているのはテイムされた魔物・ヘルハウンド。
全長は2メートルと少々。
ゆったりとした走りだが、馬車から遅れる事はない。
これが嫌でも人目を引く。
凶暴な面貌と全身を覆う黒い体毛が相まって禍々しい。
が、テイムされた印の首輪が見えるので、行き交う者達は安堵した。
ジャンポールは伯爵領に着いても領都には立ち寄らない。
人目を避けるように迂回し、領地の南端に向かった。
鉱山で栄える街・アムスムバ市に入った。
ここはかつては隣領であった。
オールマン伯爵が治めていた。
それを領地境の争いが起こったのを機に、
ヘイセル伯爵軍が占領し、併合して領地に組み込んだ。
お陰で今もって隣領とは仲が悪く、時に応じて軍を衝突させている。
ここは戦雲漂う地なので、
ヘイセル伯爵軍は本格的な兵力を投入していた。
騎士五百騎、従士千名、領兵隊千名、計二千五百。
いざとなれば傭兵や冒険者の臨時雇用も計算の内。
アムスバム市は鉱山からの莫大な上がりがあるので、
代官の管轄外とし、伯爵の直轄地とした。
ここを治めているのは筆頭執事の配下執事の一人。
シャルル・アズマ。
寄子男爵・アズマ家の次男。
目端の利く男だ。
ジャンポールは彼を次の筆頭執事と目していた。
市庁舎のエントランスで馬車から降りた。
すると目の前に当のシャルルが待ち構えていた。
「ようこそ、アムスバム市へ」
丁寧な挨拶。
思わずジャンポールは返した。
「暇なのか」
「まさか。
街の表門からの知らせが届いたので、駆け下りて来たのです」
執務室は三階にある。
それにしても息せき切っていない。
若さのせいだろうか。
ジャンポールの己の年齢を感じた。
「頼んで置いた調べ物は」
「万全です。
ただ、不安を覚えます」
彼にしては暗い。
執務室ではなく、隣接する平屋に案内された。
入り口を領兵二名が張り番していた。
一行を見ると、即座に入り口を開け、敬礼した。
それでここが今回の指揮所と理解した。
室内には所狭しと長机が何列も並べられ、
壁には領地の地図が張られていた。
見覚えのある兵装の十二名が立ち上がって出迎えた。
騎士団の団長と副団長、副官二名。
従士隊の隊長と副隊長、副官二名。
領兵隊の隊長と副隊長、副官二名。
ジャンポールは当然の様にシュライダー旅団を従え、
演壇に立って全員を見回した。
「ご苦労さん、今回の件は使番に持たせた指示書通りです。
それ以下でも以上でもありません。
念の為ですが、先だって申される事は御座いませんか」
騎士団長が立ち上がった。
「いいえ、当初は我々も疑いました。
けれど、商人に扮した偵察を送って認識を改めました。
あれは危ない奴です。
生かして置けば伯爵様に危害を加えます」
「偵察が何か齎したのですか」
「ええ、奴が一人で外壁の外周に堀を造りました。
そして近い川から水路を引き、水で満杯にしました。
これは、どう考えても土魔法の上級者としか思えません」
想定外過ぎた。
騎士団の小隊を一当てさせて力量を計るどころではない。
上級者が相手となれば、それ相応のスキル持ちが必要になる。
正規兵には無理な相談か。
「それでも奴は一人。
籠城は考えられないでしょう。
門番はどうなっていますか」
「冒険者ギルドが請け負っています。
素人臭い張り番です。
たぶん、魔物対策でしょう」
「それでも用心するに越した事はありませんね。
隙を見て侵入し、暗殺するというのは」
「当方にその人材がおりません。
如何いたしますか」




