(故郷)42
執務室で人払いした。
イゼルが残したのは最も信頼している筆頭執事。
寄子の子爵家の当主でもあるジャンポール・ディア・グレコ。
イゼルの子供時代から執事として仕えていた。
そして信頼の薄い配偶者の双子。
アランとドロン。
そのドロンが厚い封書をイゼルのデスクに置いた。
「エロールイ市から届きました」
イゼルは封書の封が切られているのを確認した。
「読んだのは貴男だけね」
「いいえ、私と執事です」
毒や呪いの術式等を警戒して先に開封するのが秘書の役目。
配偶者ではあるが、双子は秘書でもあるのだ。
エロールイ市の冒険者ギルドに手の者を入れていた。
勿論、内偵である。
露見せぬように注意を払い、子飼いの商家を間に挟んだ。
そこを中継して封書が送られて来た。
イゼルは驚きが隠せなかった。
何しろ代官が簡単に殺されたのだ。
それも村娘によってだ。
その経緯はギルドが第三者として当人に聞き取りしていた。
村娘の名も記されていた。
カリス村のジュリア。
冒険者見習いとしてのステータスに見るべきものはなかった。
「名前、ジュリア。
種別、人族。
年齢、12才。
性別、雌。
出身地、パラディン王国。
住所、パラディン王国、元カリス村。
職業、冒険者見習い。
スキル、身体強化初級、生活魔法」
イゼルは二度読みするとアランに手渡した。
手が空いたのを見て取った執事が珈琲を差し出した。
「どうぞ、お嬢様」
配偶者を得て、子供にも恵まれたのに今もってお嬢様扱い。
何度か注意したけど、直らない。
直そうともしない。
イゼルは匙を投げた。
珈琲を飲んでアランを見た。
嬉しそうな顔をしていた。
「何が嬉しいの」
「僕達の出番かなと思ってね」
アランは剣術中級、ドロンは火魔法中級。
共に出番に恵まれずにいた。
ドロンが同意した。
「そう言うと思ったよ」二人でハイタッチした。
仮にも二人は女伯爵の配偶者。
そう簡単には戦場に投入できない。
それに伯爵家には騎士団がいる。
「あら旦那様方、伯爵家の騎士団をお忘れですかしら」
伯爵家は五百騎の騎士団を抱え持っていた。
これに従士隊、領兵隊を含めると総兵力は三千名。
アランが渋い表情をした。
「駄目かい」
これに執事が応じた。
「アラン様、ドロン様。
村娘のステータスはお忘れ下さい。
これは偽装です」
「そうかい」
「ええ、絶対に偽装です。
まず土魔法を行使したというのに、
その土魔法がステータスに御座いません」
アランとドロンは互いの顔を見遣り、イゼルを見て、
それから執事のジャンポールに視線を戻した。
「そうか、身体強化初級と生活魔法しかないな。
詳しく聞かせてくれ」ドロンが言った。
「ええ、申します。
鑑定スキルに偽装が存在します。
ですが、それは中級以上です。
そういう訳で、村娘が鑑定中級以上を持っているのは確実です。
土魔法も、その効果から中級以上でしょう。
他にも隠し持っているスキルがあるかも知れません。
ですから慎重に行動しませんと」
ジャンポールは言い終えると、三人をゆっくり見回した。
イゼルが尋ねた。
「村娘は私を殺すと言っているのよ。
だから、どうしても討伐する必要があるわ。
何か手がないのかしら」
「まず偵察を出します。
騎士団の小隊に一当てさせて、相手の技量を観察しましょう。
それが分ったら、それ相当の者を雇い、討伐を依頼しましょう」
「小隊を潰すのね、承知したわ。
それで、その大事な偵察は誰がやるのかしら」
イゼルが誰にともなく言った。
すると双子が競って手を上げた。
ジャンポールの言葉があったばかりなのに、
この二人、何を考えているのやら。
真っ先に突っ込んで行きそうな予感しかしない。
所詮、種馬なの。
イゼルは呆れた。
「ジャンポール、頼めるかしら」




