(生贄)10
食事を終えたからか、冷静に考えられる様になった。
まずは何をするかだ、この異世界で。
生贄にされたジュリアの無念は晴らした。
次は・・・、ジュリアの心残り、家族だろう。
生死を確認する必要がある。
その為には故郷に戻らねばならない。
でも、この身体はあまりに脆弱。
長期の旅には向かない。
となると、まずは体力作りだな。
そうだ冒険者になろう。
仕事をしながら長旅に耐えられる身体を作る。
それに冒険者登録すれば冒険者ギルドで、
旅に必要不可欠な身分を証明する冒険者カードも入手できる。
えっ、剣術上級や槍術上級で鍛える・・・、どうなんだろう。
HP低いし・・・、血で汚れたくないし。
魔法の習熟に努めるだけで良いよね。
異世界魔法理解なる知識が頭に詰め込まれているので、
後は慣れるだけ。
あっ、その前にお金。
何はなくともお金。
お金がなくては旅ができない。
ダークバリアを大幅に拡張して亜空間収納から金庫を取り出した。
2tトラックサイズの金庫だ。
材質は鋼、鍵穴は二つ、それに術式が施されている。
鑑定魔法を起動した。
重ね掛けで錬金魔法も起動した。
金庫を鑑定しながら錬金で干渉。
施されている術式は、どうやら錬金魔法初級レベルの物。
これなら問題ない。
開錠した。
金庫に入った。
余裕で歩けた。
左右に木箱が幾つも並べられていた。
それを一つ一つ、開けて中身を確認した。
貴金属、金塊、大金貨、中金貨、小金貨、大銀貨、中銀貨、
小銀貨、大銅貨、中銅貨、小銅貨、楕円銅貨、小粒銅貨。
種類別に箱詰めされていた。
手間はかかるが、箱を開けて中身を亜空間収納に取り込んだ。
気付いたら大富豪になっていた。
村娘から奴隷、生贄、一夜明けたら大富豪。
問題は空になった木箱や金庫だ。
今は用済みだけど・・・、どこで必要になるかも知れない。
亜空間に戻した。
ダークバリアを解除した。
身体強化もなし。
魔法での底上げはせずに自力で歩くことにした。
半壊した建物から出た。
そこでスラムの住人と遭遇した。
若い奴が四人。
それぞれが剣帯に長剣を下げていた。
僕を目に留めた途端、その四人が顔色を変えた。
一人が声を上げた。
「あん、始めて見る顔だな。
痩せちゃいるが、女か。
子供だが常識は分かるよな。
ショバ代だせや、こらっ」脅してきた。
いきなりで驚いた。
僕の女の子と見て調子に乗ったのだろう。
別の一人が嵩にかかった物言い。
「腰の短剣を見せてみろや。
良いもんだったらシヨバ代にしてやんよ」
三人目が低い声で言う。
「掻っ攫って奴隷にでも売っちまうか」
四人目の奴が頷いた。
僕は呆れた。
彼等は明らかに喧嘩を売る相手を間違えている。
僕は昨夜、大勢の人間を雷魔法で死傷させた。
ついでにゴブリンも風魔法で討伐した。
それを知らないから仕方ないが。
でも油断はしない。
鑑定を起動して四人のステータスを見た。
職業がスラムの悪党になっていた。
ランクも、HPもMPも低いのに、これで悪さをするなんて。
つるむしかない連中なんだろう。
それでも同情はしない。